労働災害
労働災害を所管するのは労働基準監督署であり、対象となるのは労基署に対して事業所の届け出義務がある業種に限られることとなっています。
消防署・消防本部などは届出義務のある事業所ではないため、いわゆる労働災害とはなりません。
そして、労働災害として認定を受けることの第一の目的は補償です。
労働災害として認定されると、休業補償や障害に伴う補償金などが支払われることとなります。そのため、勤務中の負傷に関しては、労働災害の認定を積極的に受けて金銭的な補償を受けたいと考えるところです。
しかしながら、労働災害を発生させた事業所に対しては、一部業務・営業の停止などのペナルティが課されることになります。
この業務・営業停止命令については、労働基準監督署の調査に基づいて出されることとなっています。
当然ですが、消防に対して業務停止命令が出されることは公共の利益に反するため、そういった行政指導が成されることはありません。
となれば、労度基準監督署の調査も無いわけです。
労働基準監督署の調査が無いとどうなるのか。については続きをお読みください。
公務災害
労働災害と似た言葉に【公務災害】というものがあります。
被災者・罹災者の補償という点においては、労働災害も公務災害も同じです。
違うのは、使用者の責任に関する点です。
労働災害は使用者責任がセットになっているのに対して、公務災害に関しては使用者責任を追及するシステムが欠如しています。特に今回の静岡市消防局の火災現場での殉職などについては、加害ではなく、現場にいた管理・監督者の怠慢や安全配慮不足によるものであるため、純粋な加害者が存在せず、責任を立証して追求することは非常に困難です。
消防大好き第三者委員会
責任を立証するために必要な調査は、労働災害であれば労働基準監督署が実施してくれます。事業者と労基署は完全に独立しているため、適切な調査が期待されると思います。
しかしながら、公務上の事故事件については、労基署の調査が無いため、第三者委員会とかいう不思議な委員会を内部の人間や利害関係にある関係者を中心に集めて組織して事故調査することとなります。
となれば、消防本部に有利な調査結果しか出すことはありませんし、そもそも労働上の災害調査のプロではないため、何を調査するのかは意味不明です。
第三者委員会を設置する目的は、「一般市民や職員、殉職者遺族を黙らせること」です。内部調査では納得できないでしょうから、内部機関ではない第三者委員会による調査の結果として意見書や調査結果書を出したいと考えているわけです。
消防士殉職の責任
意見はそれぞれあるかと思いますが、人の正しい死に方は「事故や事件、災害などに巻き込まれることなく、寿命を全うして老衰や病気の治療の甲斐虚しく命を継続することが出来なかった」ことではないかと思っています。
そして、上記の例に合致しない場合には、責任を追及されるケースが多々あります。
交通事故、医療事故、殺人事件、原発事故などなど。そして、労災死亡事故も同じです。
労働災害死亡事故では、死亡事故発生の原因について詳細な調査が行われ、現場監督者の責任や会社そのものの責任、社長の責任など、様々な面で調査されて責任が追及されることとなります。
行政処分
消防が起こした公務災害に対しては労働基準監督署の調査が入らないため、業務停止命令や改善指導といった行政処分が行われることはありません。
民事責任
いわゆる賠償責任というものですね。
消防士が現場で負傷した場合で、その負傷した原因が消防本部の不適切な資機材管理であったり、長時間の重労働が続いていたことなどであった場合には、消防本部側に責任を追及して損害賠償を受けることも可能です。
実際に消防本部の責任を立証することは非常に困難なことですが、イメージしやすいように、例示をしてみましょう。
例)消防隊が現場で着用する防火用ヘルメットについて、個人に貸与されてから20年以上経過しており、頭頂部に大きな亀裂が生じていた。消防本部の個人装備担当に相談したが「予算の都合上すぐに代替品を用意することはできない。所属で非番者から借りるなどして対応して欲しい」との回答を受け、交換はしてもらえなかった。
この件を所属長に相談したところ、「衛生管理上他の職員のヘルメットを使用することは許可できない。」との指導を受ける。再度本部の個人装備担当に相談したところ、本部の個人装備担当と消防署の所属長が直接交渉することになった。
相談から3日程経ったが、予算の確保も所属長の許可も得られないことから、亀裂の入ったヘルメットを使い続けるしかなかった。
その日の夜に管内で火災が発生し、亀裂の入ったヘルメットを装備して現場に向かい、消火活動を実施した。結果的にヘルメットの亀裂部分が原因でヘルメットに穴が開き頭部を負傷した。
この場合、明らかに消防本部や所属長に何らかの責任が発生するのは間違いないということは分かるでしょう。
従業員の安全のために必要となる予算を適切に確保・管理していなかった責任、安全が確保できていない状態で火災現場に行かせたうえで消火活動を行わせた責任。
どうでしょうか。イメージ出来ましたでしょうか。
今回の静岡市消防局のケースでは、また違った側面がありますが、安全が確保できていない状態で消火活動に従事させ屋内進入させた責任といものは確実に存在するのです。
消防の現場に安全などない!とかいう飛躍しまくった意見を言ってくる人もいますが、危険な現場で安全を確保しながら活動するのが人としての義務です。
消防士は危険な現場に命を捨てる覚悟で突撃する決死隊ではありませんから。
しっかりと命綱や墜落制止用器具、照明器具、整備された防火服などを使用して、命を落とさないように活動する、そして活動させる必要があります。
こういったことが行われていないのであれば、安全配慮義務違反として損害賠償を請求することができるわけです。
刑事責任
いわゆる業務上過失致死というものです。
ここでいう業務には当然消防の業務も含まれています。
消防の行うありとあらゆる業務・公務において、それらを原因として職員が死亡した場合には、その死亡に対する責任をその現場を管理監督または、組織体制そのものに関する責任を個人として追及されることとなります。
民事責任の対象は個人又は法人であるのに対して、刑事責任の対象は個人となります。
今回のような消防士殉職事件については、現場管理者の責任や組織としての責任を追及することが可能ということです。
まとめ
上記の【学習しない消防士】にも似たようなことを書いていますが、
消防組織が【徹底的に検証を行って、再発防止に努める】と言った場合、確実に嘘です。
嘘というか、意味が分からず言葉を音として出しているだけです。
そんなことをしているから、数年前に複数の殉職者を出している消防本部から、再度殉職者が出るのです。
本当に再発防止に努めるのであれば、最低でも民間企業で労働災害死亡事故を起こしてしまった事業所よりも思い処分が科されるべきです。
現場の責任者である小隊長、中隊長、分隊長、大隊長、指揮隊長、署隊長など、呼称は分かりませんが、そういった人が適切に処分されるような状態でないと、反省することはないのでしょう。