装備(とくに個人防火装備・空気呼吸器・熱画像装置)の進化に合わせて、屋内進入はより体系化・安全重視にシフトしました。
現在は、充水済みの筒先を確保した上での進入、熱画像装置・退路確保資器材の併用、換気との同調、バックアップ(RIT等)の配置が基本発想です。
※RITは Rapid Intervention Team の略。即時介入隊、救助待機隊などと言われ、屋内進入中の隊員が遭難・転倒・迷失・空気枯渇・崩落に巻き込まれた際に、ただちに救出に向かうためにあらかじめ待機しておく専任チームのこと
消防庁の装備ガイドラインは「屋内進入を実施し得る隊員」を対象に性能要件を規定し(2017→2022改定)、安全管理マニュアルは進入時の援護注水・危険確認などを具体化しています。
1990年代以前(コート型+銀長靴が主流だった時代の終盤)
- 屋内進入は命綱・誘導ロープの活用/単独行動の禁止が強調。進入には消極的、抑制的で、進入時も退路喪失を避けるためロープ等で管理。
- 換気は自然・機械(送風機)中心。
2000年代(セパレート型が普及する時期)
- 個人防火装備の性能向上とともに、充水したホースを確保しての屋内進入、援護注水など安全手順が明確化。
- 熱画像装置(TIC)の実務活用が広がり、温度上昇部の早期把握・踏み抜き危険の察知などが戦術判断に組み込まれる。
- 泡・CAFSの検証と用途整理(小規模油火災などでの有効性検証)
※CAFS(Compressed Air Foam System)は、水+泡原液に圧縮空気を混ぜてホース内で完成泡を作り、放射する仕組み。従来のフォームノズル(空気同吸式)と違い、泡質が安定し、到達距離や付着性に優れてい
2010年代(安全管理の体系化・科学的戦術の導入)
- 消防庁の安全管理マニュアルが、放水可能な筒先を確実に保持、援護注水を受けて進入、とび口で強度確認等を明文化。
- トランジショナルアタック(外部冷却→進入)の考え方が紹介・普及し、外部からの冷却で熱攻撃性を下げ、安全に屋内展開する流れ。
- 退路確保資器材・検索体形の見直し(ロープ・誘導資器材・照明など)。
2020年代(ガイドライン改定と実証の深化)
- 消防庁の個人防火装備ガイドライン(2022):屋内進入を前提に、防火服・フード・手袋・防火靴・しころ等の性能を包括的に規定
- 熱画像装置(TIC)で天井裏・床下など階層間延焼の検知、床面100℃超で踏み抜きリスクの目安といった実験的知見が実務に反映。
- 進入要員と筒先のセット運用、バックアップ線や待機要員の配置(即時介入隊=RITの考え方)を訓練に組み込む動き。
- 自治体の戦術見直し例:屋内進入時の筒先確保・二人以上での進入など運用整理の議論。
「装備の進化」が変えた屋内進入の判断ポイント
- 隊員保護性能
- 旧来より熱負荷・浸水・機動性の弱点が小さくなり、セパレート型+現行PPEで熱侵入の弱点部位(襟・股など)の保護と可動性が両立。結果として、進入を前提とした手順(援護注水・充水線の確保・退路管理)の遵守が現実的に。
※PPE 個人防護装備一式(Personal Protective Equipment)
- 情報取得とリスク評価
- TICで見えない高温域・階層間延焼・踏み抜きの危険を可視化し、外部冷却を先に入れる/別経路から進入する等の判断が取りやすくなった。
- 冷却と換気の同調
- 外部からの冷却→進入(トランジショナル)や、水力換気/PPVの検証により、温度と煙の制御→検索・進入の順序設計が一般化。
- バックアップと救出体制
- 進入線のほかに援護線・即時介入隊(RIT)を準備し、メイデー対応を前提化。国内でも訓練体系に取り込む例が見られる。
いまの基本フロー
- 現場観察(煙・炎・開口部・構造・人命情報)→外部からの冷却の要否判断→充水済み筒先の確保→退路確保資器材・照明・TIC携行→換気は冷却と同調→検索・消火の展開。自治体例では筒先1口につき2名以上で進入などの基準整理も。
旧来との違いをひと目で
- 旧来:進入時の視認・退路喪失リスクが高く、命綱・誘導ロープ等で慎重に、外部防御寄りになりがち。
- 現在:装備性能+TIC+手順整備により、外部冷却→屋内進入や援護線・RIT前提でリスクを制御しつつ迅速に展開。
RITを活用した屋内進入に必要な人員数
進入口まわりで、安全に屋内進入を実施するには、最少でも5名、推奨は8〜10名です。
最少構成(5名)の場合
- 進入隊 2名(筒先+バッカー)
- ドア/ラインコントロール 1名(入口でホース送り・開口管理・無線担当)
- RIT 2名(即時介入隊の最低人数として待機)
最少構成なので、要救助者情報(人数、場所)が確定している場合に実施されるものと考えていいでしょう。
例)高層マンション火災でベランダに手振りの逃げ遅れあり、はしご車到着まで待てないか架梯不可、下階と隣室からのアクセス不可、玄関から進入可能の場合などが考えられますね。
推奨構成(8〜10名)
- 進入隊 2〜3名(隊長+筒先+バッカー)
- 援護線隊 2名(2線目の筒先で冷却・防御・退路確保)
- ドア/ラインコントロール 1名(入口でホース送り・開口管理・無線担当)
- RIT 3〜4名(検索役・空気供給役・工具役などの分担が可能)
- 進入管理指揮 1名(隊長が兼務可。エア残量・人員管理・無線記録)
ポイント
- RITは専任待機が前提。進入隊や援護線隊と兼務させない。
- ドアコントロールは、ホース反力の受け・開口部の制御・無線の通訳役を担い、進入隊の負担とリスクを大きく下げます。
- 援護線は温度急上昇時の援護注水・退路防御・露出防護に使い、RITの動線確保にも寄与します。
- 人員が足りない場合は、進入を遅らせて増援到着と同時にRIT専任を成立させるか、生命危険が確実な場合を除き進入自体を見合わせるのが基本運用です。
現場での並べ方(入口基点の例)
- 入口直近:ドア/ホースラインコントロール1名、援護線隊2名を寄せる
- 入口から少し外側:RIT 3〜4名が装備展開して待機(RITパック・工具・TIC・照明)
- 進入ライン:進入隊2〜3名が充水済みで展開し、進入管理指揮者が無線とエア残量をモニタ