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道頓堀火災を三層で検証する― 直接・間接・根本で捉える殉職事故

大阪市

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事故原因は三層で考える ― 直接・間接・根本

あらゆる物事の原因は、大きく三つに分けて整理できます。

この三層を切り分けて見ない議論は、対症療法に終始し、再発を防げません。

残念ながら、現在の消防士たちは、このような考証・検証をするのが非常に苦手です。

参考記事 なぜ消防職員に発達傾向の人が多くなるのか|「適応」が再生産される組織の構造的問題

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身近な具体例で三層をイメージする

例1:交差点での交通死亡事故

例2:建設現場での高所墜落事故

例3:情報漏えい(誤送信やフィッシング被害)

 これらを見て理解できると思うのですが、すべてにおいて間接原因をどの程度掘り下げて検証するかがカギになることがわかると思います。

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道頓堀の火災で二名が殉職した事実と、議論の偏り

 2025年の道頓堀の火災では、二名の消防職員が殉職しました。報道では直接原因として酸素欠乏が伝えられています。ここまでは必要な事実です。

 問題はその先です。現場を知る消防士・元消防士を含む多くの言説が、直接原因だけを取り上げ、酸欠を防げば殉職を防げたというニュアンスに流れがちであることです。あるいは、間接原因にまで思考が追い付かないのが現状です。

 これは危うい発想です。なぜなら、直接原因は医療的に対処しうる結果面の話であって、なぜその結果に至ったのかという過程面(間接原因)や、それを反復させる仕組み(根本原因)を照らし出しません。

 今回の活動で行われた屋内進入は、必要だったのか、不要だったのかで意見が分かれている局面でした。

 まさにここが検証の核心です。にもかかわらず、直接原因の一点だけで議論を閉じてしまえば、意思決定や戦術運用の妥当性撤退のタイミング情報の取り扱い指揮の構造など、再発防止に直結する論点が置き去りになります。

 本稿は個人を断罪する意図はありません結果論で誰かを責めるのではなく、結果を生んだ構造を言語化することが目的です。

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直接原因だけを見ても再発は防げない

直接原因に注目するだけの議論には、少なくとも三つの落とし穴があります。

  1. 対症療法に偏る
    酸欠という結果に対し、機器や装備の話に終始しがちです。装備は重要ですが、同じ判断が繰り返されれば同じ結果に近づきます
  2. 時系列が抜ける
    進入口の状況、奥の見通し、煙・熱の変化、通信のやり取り、退路の確保など、時間の中でのリスク評価の更新が見えなくなります。
  3. 責任の所在が曖昧になる
    直接原因を口にするだけでは、誰が、いつ、どの根拠で、どの代替案と比較して決めたのかが検証されません。これでは学習も改善も起きません

まさにこの思考的構造は消防士型上司の典型的特徴です。
参考記事 消防士型上司とは ― 最近話題の新しいカテゴリ

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間接原因として点検すべき視点(断定ではなく、検証仮説)

以下は断定ではなく、検証のための問いとして列挙します。実際の資料・記録・証言と照合されるべき仮説群です。

 これらはどれも、直接原因を生んだ道筋に関わる要素です。ここが見えなければ、装備を替えても、スローガンを掲げても、同型の事故は止まりません。

参考記事 大阪市での殉職者を出した火災に寄せられるコメントや意見について
参考記事 火災報知器の不備と消防士殉職 違反建物にすり替えられる本質的議論
参考記事 ベテラン不在が露呈した大阪ビル火災 22歳と55歳が同じ死を遂げた消防組織の皮肉

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根本原因として問い直すべきこと

根本原因の是正は時間がかかります。しかし、ここに手を付けない限り、間接原因は繰り返し再生産されます。

関連記事 道頓堀火災の殉職事故を受けて、消防学校の授業案

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「違反建物=間接原因」という考え方を正す

 消防法令に違反した建物で火災が起きた、という事実は背景条件です。現場に到着した消防側がその場で変えることはできません。

 いっぽう間接原因とは、現場や組織がその場で選べた行動や判断のことです(進入のしかた、撤退の基準、通信のやり取り、時間の切り方など)。この二つは別物です。

 わかりやすく言うと、交通事故で「雨が降っていた」は背景条件、「赤信号で進んだ」「シートベルトを外していた」は間接原因に当たります。

 医療でも「出血多量」は直接原因、「刃物で刺された」は間接原因、「社会的的なストレスを抱えて犯行に至った」は根本原因です。

 消防に置き換えると、違反建物はに近い性質で、危険度を上げはしますが、それだけで殉職が決まるわけではありません。

 重要なのは、「違反を前提に戦術や指揮をどう変えたか」という可変部分の検証です。

 もし建物が適法でも、同じ判断と運用なら事故は起こり得ますし、違反があっても、判断と運用が適切なら被害は減らせます。

 だから「違反建物だった=間接原因」と短く結ぶのは誤りで、私たちはその場で変えられたこと
・進入の閾値
・小進入→即退却
・撤退のしきい値
・全体の俯瞰的指揮と進入口の局面指揮の連携
・事実→提案→再判断時刻の通信
に目を向ける必要があります。

 感情ではなく、何が選べたかで振り返る——その視点が、次の現場で命を守ります。

関連記事 大阪市での殉職者を出した火災に寄せられるコメントや意見について
こちらに、多数の一般人の死傷者を出したが、消防士は誰一人殉職しなかった火災について書いています。

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まとめ ― 三層を分けて、同じ悲劇を繰り返さない

本件について、直接原因だけを繰り返す議論は、危険の本体から目を逸らすことになります。必要か否かで意見が分かれた屋内進入、その判断の根拠と運用、指揮の二層構造の実効性、撤退基準と時間管理――このあたりを淡々と、記録と時系列で検証する。それが、二人の犠牲を次の現場で減らす唯一の道です。

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