消防の常識は世間の非常識
自分自身が消防士として初めて配属された消防署の先輩に、「消防の常識は世間の非常識」とか「消防の常識は社会の非常識」と言われたのを覚えています。後で知ったことですが、この言葉は日本中に蔓延しており、ほとんどすべての消防職員が聞いたことのある言葉なのではないでしょうか。
いい意味で使われる場合もありますが、今回は悪い意味で使われていることとして話を進めます。
採用から数年が経って、色々と勉強していく中で、ただの非常識では済まない違法行為が広く蔓延していることが徐々に分かってきました。
そんな違法行為やそれに近い消防の常識を今回は紹介したいと思います。
所有者不明の私物が多数放置①
話を分かりやすくするために、私物を公費(税金)以外で購入したもの、公用備品を公費(税金)で購入したものと定義して話を進めます。
消防署には、所有者不明の私物が多数存置されています。
代表的なものはトレーニング機器ですね。バーベル、ダンベル、ベンチプレスベンチ、ゴムマットなどなど。
多くの場合、個人的に不要となったものを持ち込んでいるか、署費や小隊費・中隊費といった名目で在籍する職員から強制的に会費を集めて購入したものとなります。法令上、公金管理の帳簿に載らない以上、すべて私物となります。
いずれの場合であっても、市町村長等が所有する公共施設である消防署の一角を私物が占有している状況は不法占拠と言われる場合もあります。
これが公用備品であれば、購入の段階で占有の許可も同時に行われていると判断されるため問題になりません。
また、消防署所は人工物であり、いつか建物としての寿命を迎えることとなります。建物は解体され、建物内の備品と併せて産業廃棄物として処理されるのです。当然、廃棄には費用(税金)がかかることとなります。
この時に私的に購入したトレーニング機器の破棄にも費用がかかるわけです。
この瞬間に産業廃棄物等の不法投棄が成立です。公共施設に私物のトレーニング機器を不法に投棄したことになるのです。
廃棄物処理法違反で逮捕されるかもしれませんね。
所有者不明の私物が多数放置②
次に多いのが、テレビの持ち込みですね。
公共施設に限らず、事業所としてNHKの受信料を支払う際には、原則としてテレビの台数分の受信料を支払う必要があります。
個人宅であれば世帯数×受信料となりますが、事業所の場合はテレビの台数×受信料として計算されます。
先の例①でも私物の持ち込みが廃棄物の不法投棄などの違法行為であることは表現しましたが、テレビの場合は、受信料の支払い上の問題も発生してきます。
テレビを持ち込んだその瞬間から受信料の支払い義務が発生します。仮眠室の個室化や、女性専用スペースの整備などにより、違法なテレビの持ち込み件数が増えています。
さらに、廃棄時にはリサイクル料金も発生するため、所有者不明のテレビの存在は頭を悩ませるものです。
勤務中の私的な行動
勤務中にスマホをいじって馬券を買っているとかいうレベルは、明らかに違法行為なので除外します。
今回紹介するのは、昼食や夕食に関連する行動です。
公務員の勤務条件などを定める法律条例規則などを含めた法令に、食事のために勤務から解放するという考え方は一切ありません。あるのは単純に休憩時間というものだけです。
消防本部ごとに異なりますが、昼12時前後と夕方18時前後に30分から60分程度の休憩時間というものが設定されています。
多くの消防本部では、消防オリジナルの伝統メニューが存在し、消防うどん・消防カレーなどといった定番のものから、消防パスタ・もつ煮などを作る場合もあります。
12時には全消防職員が食事を始められるように、10時半ころから調理が始まります。大体若手3~4人と老害系無気力消防士数人で協力して食事の準備をします。皿を洗ったり、材料を切ったり、お湯を沸かして麺をゆでたり。20人前以上つくるとなれば、それなりに時間がかかるものです。
無事に12時には調理を終えて、食べられるように配膳します。12時半過ぎには全職員が食事を終えて、13時まで休憩時間となるわけです。
夕飯の場合は、16時半ころから準備をして、18時半までに食事を終えるってパターンが多いと思います。
この職場の休憩時間は12時から13時の1時間と18時から19時の1時間、合計2時間のみです。
10時半から1時間半、16時半から1時間半、合計3時間もの調理時間は勤務となるのでしょうか。
消防士として採用された人間が、公務中に3時間も調理をすることが許されるのでしょうか?
もちろん答えはノーです。
完全に服務規律違反です。
消防署には災害発生時に長時間勤務する可能性があることに備えて、家庭用より少し大きな調理場が用意されています。しかし、これらは、日常の食事のために用意されているのではありません。
消防士の仕事のなかに調理はありません。
稀に、災害時を想定して日ごろから炊事訓練をしているとの反論を受けることがありますが、これは違いますね。
炊事訓練をするのであれば、材料調達はせずに備蓄品で行ってください。もちろん、公費で用意したものなどを使用してください。公務としての訓練とはそういうレベルのものです。
どうしても自炊したいのであれば、休憩時間内に調理から片付けまで終わらせてください。
他の公務員が仕事をしている時間中に、自分たちが食べるための食事の準備をすることは許される行為ではありません。
新人のうちは、勤務中に買い出しに行かされたりもしますが、これも当然違法ですね。公務に必要な筆記用具や備品などを購入するための外出なのであれば、上司の命令により許可されますが、私的な買い物は当然違法です。
職務専念義務違反で懲戒処分の対象ですね。
私的な通信
消防署所には、固定電話が設置されています。もちろん、電話機本体代(購入orリース)は税金ですし、電気代、通話料も税金で賄われています。
先の勤務中の私的な行動と重なる部分がありますが、公用電話を使用して昼食のお弁当の発注や食材の注文は全て違法です。セキュリティポリシー違反になり停職以上の処分の可能性もあります。
ちなみに、私物のスマートフォンを使用して注文をしたとしても、公務中の行動であれば違法です。こちらもセキュリティポリシー違反です。
私物の公務使用
スマートフォンやデジタルカメラ、デジタルビデオカメラの使用が多いですね。
基本的にすべて情報セキュリティーポリシー違反です。
公務中に私物の情報記録装置を使用することは禁止されています。個別に許可を取って使用を認めるケースもありますが、手続きが面倒である上、基本的に認められません。
私物の公務利用が認められるほどの必要十分性があるのであれば、公費でそのものを購入するのが常です。公費で購入しない理由がある以上、私物の理由が認められることはほぼありません。
頭の弱い管理者とかなら、認定してくれるかもしれませんね。
ちなみに自家用車の公務利用も同じです。
救助技術訓練のために、近隣の消防本部まで視察に行く場合など、公務上の出張・旅行において自家用車の使用に関する規則が定められていない場合は違法です。公用車もしくは公共交通機関を使用していく必要があります。
公共交通機関が十分でない地域では、あらかじめ自家用車の公務利用に関する申請手続きを踏むことに寄り、公務利用が可能となります。
理由は分かりませんが、バイクに関しても同じ手続きが必要となりますが、自転車に関してはそういった手続きが用意されていなケースが多く感じています。
敷地内の違法駐車
事例①のトレーニング機器の違法存置と公共施設の違法占拠に近い問題です。
消防署の敷地は市町村などが所有者となっており、公共の利益のために使用されるべきものです。個人的な目的のために、自家用車を停めることは本来許されていません。
自家用車の公務利用と同様となりますが、あらかじめ届出により認定される場合もあります。
自家用車の場合と同様に、公共施設などが十分でないため、通勤のためには自家用車などを使用する必要があり、近隣に駐車場もないため消防署運営を目的として止むを得ず使用を認めることはあります。
ただし、かなりの田舎であったりとかしない限りは、認めているケースはあまりない印象ですね。
以前学校の先生から相談を受けて、先生用の駐車場を敷地内に設けることの適法性や妥当性について整理したいから手伝ってほしいと言われたことがありますが、非常に苦労したのを覚えています。
貸与品の不正使用
こちらも非常に多い違法行為ですね。
消防職員が公務上使用する、防火服やヘルメット、作業服や救助服、救急服、安全靴、半長靴、防火手袋については、基本的に公費で購入したものを個人ごとに貸与、つまり貸し出ししている状況となります。
つまり、すべて公務のために使用する必要があるのです。
くだらない例で言うと、非番や週休日に、貸与品のシャツや靴を身につけてコンビニに行くことは禁止なわけです。通勤についても同様に禁止されている場合もありますし、通勤のみ特例で許可している消防本部もあります。
質が悪いのは、私的な救助訓練時に貸与品を使用する例です。使用自体に問題があるうえ、消耗も激しく、貸与品の交換を申請してくる場合もあり、非常に迷惑な行動でもありますね。
雑誌記事などへの投稿や試験問題の作成
ある程度名のある消防本部や、救命士の研修会等で名前を知られるようになると、消防や救急医療の専門誌への記事掲載を依頼されることがよくあります。
組織の人事や所管事務課あてに依頼がくることもありますが、個人的に依頼がくることもあります。
個人的ないらいの際に、ついついうれしくなり依頼を受けてしまい、数千円から数万円程度の報酬を受け取ってしまうこともあります。
しっかりと副業規定に違反ですので、バレれば減給です。まぁほぼバレますけどね。
組織として記事作成の依頼を受けるか否かを判断し、公務中にその記事を作成し、報酬は歳入として受け取る。
または、営利企業等従事の許可申請を出し、公務外の記事作成により個人的に報酬を受け取るのが一般的ですね。
まとめ
消防の常識は世間の非常識 なんて笑い話をされていましたが、知識が深くなっていくにつれて、非常識では済まされない違法行為が蔓延している事実に驚愕しました。
在職中に是正を求めるための行動を複数回起こしましたが、消防の世界に世間の常識は通用しませんでした。理解されることも無ければ、違法の可能性があることの認識すらできない人たちだったので、もう話をする気力も無くなるくらいでした。
ここに記載したのはあくまでも一般的なものを列記しましたが、細かい話をすればもっともっと膨大に違法行為は蔓延しています。
正直者が馬鹿を見ない消防組織の成立を生きていいるうちに見られることはきっとないでしょう。