消防士の交替制勤務の歴史と未来について【戦前戦後】【2交替・3交替】

現場の本音
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専任の消防が誕生したのは戦後

 昭和23年3月7日に消防組織法が施行されるて以降、原則として市町村により消防行政が管理運営されてきました。それ以前は、消防は警察組織の一機関であり、警察署長の指揮下にあったものとなります。

 戦後に警察と消防の分離が米国から勧告されたことにより、都道府県・消防署長の指揮下から外れて、市町村消防が誕生しました。戦前の消防は、現在の消火業務等を専任で行っていたわけではなく、交通整理やその他の業務についても担当していたようですので、現在の消防とは様子がちがったということは分かると思います。

 ポイントは米国総司令らの関与があり、現在の消防の基盤が作られて、まだまだたったの70年くらいしか経っていないということです。

 もちろんゼロから日本の自治体消防を作ったわけではないでしょう。参考にしたのは米国自国の消防体制であることでしょう。

 つまり、現在の24時間制の交替制勤務の基盤は米国にあったということです。

 消防士なら見たことがある人も多いと思いますが、シカゴ・ファイアでも24時間制の交替勤務であることが伺えます。

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24時間制交替制勤務の功罪その1

 その1としては、功罪の功績の部分について考えたいと思います。

 最大の功績は、勤務割り振りが非常に簡単であったという点です。

 24時間体制で消防救急業務を提供するために、どのように人員を配置して勤務させるかとなったときに、人員を2つか3つに分けて交互に勤務させればいいだけですから。

 過去は分かりませんが、現在の消防士にとっては24時間制の交替制勤務割り振りを超える複雑な勤務割り振りは非常に困難でしょう。

 例えば、24時間営業のドラッグストアにおいて常時営業状態でいられるように人員を配置し、勤務時間と勤務外の時間を平等にしたうえ、連続勤務が長くならないように配慮する。さらに有給や忌引きへの対応も視野に入れておく。なんて複雑な勤務員の配置やシフト管理は現在の消防士にはできない訳です。

 二つ目の功績は、管理職のポストを多く作ることが出来たという点です。

 上記のようなドラッグストアであれば、管理職が最低1人で済みますが、消防の24時間制の交替制勤務であれば最低2人、3交替制勤務を採用すれば、最低3人の管理職が必要となります。

 公務員の人件費が無駄に増えるため、納税者にとってはデメリットとなりますが、勤務する消防士たちにとっては、管理職が増えるということは、実質的な賃金アップになるためメリットと言えるでしょう。

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2交替か3交替か

 詳細の説明は割愛しますが、2交替と3交替の違いは次のようになっています。

 2交替制は4週間で10日勤務&8日休み
 3交替制は3週間で7日勤務&1日日勤&6日休みです。

 そして当然ですが、2交替は2班が交替で勤務、3交替は3班が交替で勤務となっています。

メリットで比較する

2交替制勤務メリット

・当直する人員が固定されないため、嫌な人が居ても逃げ道ができる
・忌引きや体調不良等の急な休みがあったとしても人員のコントロールが容易である
・週休日は基本的に連続となる
・4週間ごとにパターンが切り替わり、年に数回4連休がもらえる。有給や非番と合わせて9連休にすることも可能
・広域応援のために数日市外県外に赴く場合でも勤務上の調整が容易

3交替制勤務のメリット

・当直する人員が固定されるため、パワハラがあった場合の人事調整が容易である
 ⇒当直の班内での調節が不可能であるため、問題が発生すると他班との人事交換を実施して解決することが容易にできます。
・当直する人員が固定されるため、人材育成を体系的に行うことが容易である
・24時間勤務明けの翌日が休みとなるため、身体的に楽である

メリット比較

 メリットの数だけで比較すると2交替に軍配が上がりそうですが、消防に限った話ではなく、労働安全衛生上の観点から、パワハラ対策は喫緊の課題であると言われている点と、技術伝承という観点から、人材育成に重点を置く組織が増えています。

 そういった背景からか、2交替制勤務から3交替制勤務に切り替える消防本部は少数ですが存在します。

 逆に3交替制勤務から2交替制勤務に切り替えた消防本部は殆どありません。一度3交替に切り替えたものの、運用が芳しくなかったため2交替に戻したという事案もあった気がします。

デメリットで比較する

2交替制勤務のデメリット

・当直する職員が固定されないため、チームとしての訓練や情報共有が困難である
・24時間勤務明けの翌日も当直となるため、身体的に負担が大きい場合がある
・ハラスメントの加害被害が発覚しにくい

3交替制勤務のデメリット

・連休が少ない
・忌引きや体調不良などの急な休みへの耐性が弱い
・女性が少ない職場であるとケアが不十分になる
・広域応援や感染症拡大の際に人員調整作業が複雑である

比較まとめ

 比較したのだから、どちらが優れた勤務体制であるかという個人的な結論を出したいと思いますが、やはり、誰の視点から論じるのかということを定義づけないといけないかなと思います。

 ここでいう誰の視点となると、勤務する消防士の視点勤務させる消防士の視点市民の視点があると思います。

勤務する消防士の視点

 勤務する消防士といのは、24時間制の交替勤務をしている消防署で勤務している消防士のことです。

 彼らにとって都合が良いか悪いかという点について考えることとします。

 すると、2交替は疲れるが連休がある一方で、3交替は疲れが少ないが連休が少ない。2交替は研修計画・署の行動計画が立てにくい一方で、3交替は立てやすい。こういった比較になるものと思います。

 申し訳程度に後者を書きましたが、勤務する消防士の視点では、判断基準の99%は前者の連休か疲れが少ないかという議論になることでしょう。そして、この件については答えはないものと思います。
 なぜなら、研修や行動計画が未熟なものであろうとも、当事者たちが直接的に不利益を被ることはありませんから、直接的に利害のある休みや休息に関する意識となるのは当然のことです。

勤務させる消防士の視点

 勤務させる消防士とは、消防本部で総務や人事といった職員管理を担当する職員であったり、消防長や総務課長といった消防士を指しています。

 彼らにとっての都合を考えると、2交替の方がメリットがあります。

 そのメリットは、まず人件費が安く済むという点です。先にも書いた通り、2交替よりも3交替の方が管理職や監督職といった高給取りを多く配置する必要があるため、人件費が高くなりがちです。

 このご時世、消防の予算が湯水のように湧き上がるわけではありませんので、車両や資機材に限らず、少ない予算で最大のパフォーマンスを出すという政策を求められるわけですから、人件費という側面からも、可能な限り無駄な管理職や監督職を置きたくない訳です。(もちろん、この程度の政治的・行政的な感覚が欠如している消防士が大半なので、この点の議論が飛んでいるようであれば要注意消防本部ですね)

 次に、口うるさい管理職は少ない方が本部の担当者としては楽なわけです。これは事務担当レベルです。本部の事務担当者は階級に関わらず現場の責任者に対して事務的な指示をすることが多数あります。その際に、煩わしくて口うるさい管理職なんて少ない方がいいにきまっています。

 逆に、消防組織内の小さな権力争いであったり、派閥争いに躍起になっているひとは、管理職のポストが多い方が得という側面もあります。例えば、総務課長や警防課長が、次期消防長の席を狙うために、自分の息のかかった職員を多く管理職の席に座らせておきたいと考えるってことです。
 こういった小さな政治のために利用できるポストは多い方がいいと考えるのも分からなくないです。そんな小さな人間にはなりたくないですけどね。

 勤務させる消防士からの視点においても、2交替か3交替のどちらが優れているかという点については、事務担当レベルと管理職レベルで意見がまっぷたつに分かれるようなものであるといえるでしょう。

市民の視点

 市民の視点についての解説は不要だと思います。自分が住んでいる市町村の消防本部が2交替制なのか3交替制なのか、そしてどのどちらが望ましいかについて考えている市民なんて、ほぼ居ないでしょう。

 考えていない理由については、そんなことを考える必要がないからです。

 1年のうちに10回も火災を出す市民は居ないですし、1年のうちに10回も重傷で救急利用する人もいないでしょう。軽症にも関わらず、毎日のように救急車を利用する人は無数にいます。

 つまり、交替制勤務の効果について比較する機会が無いのです。

 大切な我が家が火災で燃えてしまったときに、交替制勤務の1班が来たが故に全焼となってしまったが、2班が来ていれば1室は燃えずに済んだというケースがあるわけです。

 大切な家族が急病になり救急車を要請したときに、交替制勤務の1班が来たが故に救命に至らなかったが、2班が来ていれば救命された場合だってあるわけです。

 もちろん、絶対に比較することは出来ませんが、そこに差があるという事実は紛れもなく存在するわけです。

 1班と2班で勤務する人員の能力差により発生する違いとも言えますし、そもそものマニュアル、活動方針の違いからくる場合もあります。

 2交替制であれば2種類のマニュアル、3交替であれば3種類のマニュアルがあるのです。

 もちろん、書類上のマニュアルがそもそも違うというパターンも往々にしてありますが、マニュアルの解釈や運用上の違いというものは多々発生してきます。

 パターンが多いことは問題です。

 例えば、保育園の申請のために市役所を訪れた際に、ある日は入園対象児童ではありませんと言われ、別の日には入園対象児童と言われるなんてことがあってはならないのです。

 実は消防ではそういったことが日常的に発生しているのです。人によってサービスが異なるってのが消防です。

 より身近な例を出すと、消防署に問い合わせをしても、【担当者不在なので明日改めてご連絡いただけますか?】とか【担当者不在なので、3日後に改めて連絡いただけますか?】とか言うことが平気で起こるわけです。

 交代制勤務が故に、不在期間が非常に長いのです。先に記載した通り、2交替制勤務の場合、9日間不在なんてのは頻繁にあるわけですから、担当者不在ってのが頻繁に起こるわけです。

 一昔前のお役所仕事で窓口をぐるぐる回らされるってのがありましたが、それの方が遥かにマシですね。

 好意ったことを考慮すると、市民の視点から考えると、可能な限り安定したサービスを提供して欲しいと思うのが当然であり、3交替よりも2交替を求めていると言えるのでしょう。

 もちろん、表面的な意見としては、消防士さんが少しでも楽できるような勤務にして欲しいとかいう意見が多々出るでしょうが、【我が家が燃えても、家族が焼死しても構わないので、消防士さんには楽して欲しい】とは絶対にならないわけです。

結論

 勤務する消防士の視点でも、勤務させる消防士の視点でも、合理的に優位性のある理由はないものと判断したいです。多少合理的な理由による判断が乗ったとしても、それ以外の不純な基準が常に邪魔をしてしまい、どんな結論であっても納得するかたちとはならないことと考えます。

 一方で、市民の視点では明らかに2交替制に優位性があると判断します。

 消防とは言え、消防行政という行政の一端を担う立場として、安定して公平なサービスを常に提供する責務があるものと考えますね。

 まぁ、実際に市民から意見を聞いたところで、そもそも興味も無ければ、上記のような決定的な違いについて想像することは困難でしょうから、一消防士が意見を述べたところで黙殺されるでしょう。

 そして、個人的に、優先するべきは消防士たちの私利私欲や自己都合ではなく、市民サービスの維持向上という観点かと思いますので、市民の視点を重視して、2交替制と3交替制を比較するのであれば、2交替制の圧勝であると考えます。

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24時間制交替制勤務の功罪その2

その2としては、ここまでを踏まえて、24時間制交替制勤務の罪過について考えてみましょう。

 第1に、先に書いた市民の意見がそのまま罪過であるといえると考えます。

 実際に、私が勤務していた2交替制の消防署では、1班と2班で活動マニュアルが異なっていました。どちらが優れているかについては甲乙つけがたい所がありましたが、ある側面においては、1班のものが優れるが、その逆も然りであるといった感じです。

 災害現場での活動が、1班と2班で異なっていたのは間違いない事実です。

 第2に、人件費の無駄遣いです。

 先に書いたドラッグストアの例を考えてみてください。24時間営業とはいえ、混雑する時間帯と閑散とする時間帯、混雑する曜日とその逆、混雑する時季とその逆などなど、様々なデータがあり、それを実績から予測して勤務人数を算出し、新人は0.5人と数えたりするわけです。夕方の混雑する時間帯と同じ人数を深夜3時に勤務させる必要はないわけです。

 ドラッグストアは営利企業なので、最低限とは言わないまでも、お客さんに合理的な不満が生じない程度には勤務者を配置して営業するわけです。

 これは怠慢ではなく、営業努力です。

 常に最大人数を配置して勤務させれば、人件費は莫大に膨れ上がり、販売価格に上乗せされることでしょう。人件費を最適化して、より安価に販売するための努力なのです。

 なぜ消防は同じことをしないのでしょうか?24時間同じ人数を勤務させているのが、2交替ないし3交替の勤務体制です。

 火災が多い時間帯、季節があったり、交通事故が多い時間帯があったり、酩酊事故が多い時間帯や曜日には明らかな偏りがあるわけです。少なくとも、ドラッグストアの集客情報よりも圧倒的に多いデータがあるわけです。

 人員配置を最適化しない=間接的に市民の税負担が増えるとも言えるのです。

 第3の罪過としては、総合的な要素となりますが、消防職員の怠惰と腐敗を加速させてしまったということです。

 当サイトでも紹介してきた不祥事の数々は、消防士の非番や休日に行われる事が少なくありません。仕事は暇だし休みも多いとなると、性犯罪に手をだしてしまったりするのでしょうか?

 24時間制の交替制勤務でなくなれば、こういった不祥事も減少する可能性があります。必要な程度に仕事を忙しい状態にして、勤務をさせることができれば、暇を持て余した消防士が性犯罪に手をだすこともないでしょう。もちろん、性犯罪に至らない浮気や不倫も同じでしょう。

 

 

 

 そしてしばしば話題になることですが、1班と2班のトラブルです。

 同じ建物、同じ机、同じベッドを2人以上で使用しているわけなので、常に些細ないざこざが絶えないわけです。

 トイレの使い方が気に入らないとか、台所の掃除が気に入らないとか、ベッドが汚いとか、机が汚いとか、調味料の管理が気に入らないとか、言い出したらキリがないのです。

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交替制勤務の未来

 個人的には、一刻も早く24時間制の交替制勤務を廃止する必要があると思っています。

 では、どうするのか。

 もちろん、24時間勤務は継続しますが、2班や3班に分かれる必要はなく、1班の人員を時間帯別に配置していくのです。

 イメージは24時間営業のドラッグストアです。8時から17時までの勤務の人がいれば、9時から15時の人もいるし、15時から22時、18時から2時、22時から5時、22時から6時、朝5時から10時までとかいう感じで、様々な時間帯の枠に柔軟に人員を配置して、適切な人数を勤務させればいいのです。

 必要な時間帯に必要な人員を配置する。時間だけでなく、曜日や季節も、天候すら考慮する必要はあります。

 こうすることにより、1つの班の人員が縦横無尽に勤務することになるため、現場活動のマニュアルは1つしか存在しませんから、日によって活動の質が変わることは少なくなることでしょうし、問い合わせに対して何日も待たされることはなくなるはずです。

 ただし、非常に複雑な勤務配置を管理することのできる人が必要です。

 消防士は常勤の地方公務員であるため、決まった時間数勤務させる必要がありますし、必要以上の時間の勤務を割り振ることはできませんので、多少複雑な管理が求められます。

 ただし、上記のように細かく勤務時間を分けずに、消防行政の需要に応じた時間割を考えて、その割り振り枠を多くしすぎなければ十分に可能です。

 過去にシミュレーションしたことがありますが、消防行政の展開による市民サービスの向上という面や人件費の削減という点においては、メリットしかありませんでした。

 ただし、そのシミュレーションの資料を展開したことがありますが、理解できた人は居ませんでしたし、先に述べたような【勤務する消防士の視点】、【勤務させる消防士の視点】の双方において、メリットを示す状態にはならなかったため、理解しようという行動に出なかったのかも知れません。

 戦後の米国主導で形成された消防の勤務体制については、一刻も早く日本式の体制に見直しを図り、労働者人口が減少する日本社会に見合ったものに変えていく必要はあるものと思います。