年(西暦) | 総出火件数 | 電気機器 による火災 | 電灯・電話等の配線 による火災 | 配線器具 による火災 | 電気的要因の火災合計 | 全出火件数 に占める割合 (%) |
平成14年 (2002) | 63,651件 | 800件 | 1,511件 | 1,000件 | 3,311件 | 5.20% |
平成15年 (2003) | 56,333件 | 800件 | 1,396件 | 1,003件 | 3,199件 | 5.68% |
平成16年 (2004) | 60,387件 | 800件 | 1,642件 | 1,120件 | 3,562件 | 5.90% |
平成17年 (2005) | 57,460件 | 850件 | 1,512件 | 1,122件 | 3,484件 | 6.06% |
平成18年 (2006) | 53,276件 | 850件 | 1,475件 | 1,100件 | 3,425件 | 6.43% |
平成19年 (2007) | 54,582件 | 900件 | 1,373件 | 1,043件 | 3,316件 | 6.08% |
平成20年 (2008) | 52,394件 | 950件 | 1,417件 | 1,125件 | 3,492件 | 6.66% |
平成21年 (2009) | 51,139件 | 900件 | 1,330件 | 1,059件 | 3,289件 | 6.43% |
平成22年 (2010) | 46,620件 | 950件 | 1,362件 | 1,143件 | 3,455件 | 7.41% |
平成23年 (2011) | 50,006件 | 1,050件 | 1,446件 | 1,258件 | 3,754件 | 7.51% |
平成24年 (2012) | 44,189件 | 1,000件 | 1,392件 | 1,297件 | 3,689件 | 8.35% |
平成25年 (2013) | 48,095件 | 1,050件 | 1,301件 | 1,219件 | 3,570件 | 7.42% |
平成26年 (2014) | 43,741件 | 1,074件 | 1,298件 | 1,193件 | 3,565件 | 8.15% |
平成27年 (2015) | 39,111件 | 1,104件 | 1,341件 | 1,160件 | 3,605件 | 9.22% |
平成28年 (2016) | 36,831件 | 1,132件 | 1,310件 | 1,132件 | 3,574件 | 9.70% |
平成29年 (2017) | 39,373件 | 1,221件 | 1,453件 | 1,277件 | 3,951件 | 10.03% |
平成30年 (2018) | 37,981件 | 1,405件 | 1,642件 | 1,297件 | 4,344件 | 11.44% |
令和元年 (2019) | 37,683件 | 1,633件 | 1,576件 | 1,352件 | 4,561件 | 12.10% |
令和2年 (2020) | 34,691件 | 1,611件 | 1,398件 | 1,206件 | 4,215件 | 12.15% |
令和3年 (2021) | 35,222件 | 1,816件 | 1,473件 | 1,354件 | 4,643件 | 13.18% |
令和4年 (2022) | 36,314件 | 1,960件 | 1,494件 | 1,470件 | 4,924件 | 13.56% |
※一部推計を含んでいます。消防白書から抜粋
はじめに:右肩上がりの電気火災割合に潜む違和感
ここ20年間、日本国内の火災件数は着実に減少してきた。その一方で、火災原因の中で「電気的要因」が占める割合は、異常なほどに増加している。2002年(平成14年)には全火災のうち電気機器・配線などによる火災は5.2%程度であったが、2022年(令和4年)には13.56%にまで跳ね上がっている。これは単なる統計的傾向ではなく、明らかに何かの構造的変化を反映している。
この上昇が真に「電気による火災の実態」を表しているのか、それとも火災調査業務を担う消防組織の内在的な都合による“分類の転換”なのか。この記事では、電気的火災の統計的増加の背景にある、消防組織の認識や運用上の変化に着目して分析を進めていく。
火災件数は減っているのに「電気火災」は増えている矛盾
全体の火災件数はこの20年で大幅に減っている。たとえば2002年には約63,000件を超えていた火災が、2022年には36,000件台にまで減少している。これは家庭内火災予防器具の普及、喫煙者の減少、火を使わない調理器具の普及など、社会の構造変化と火災予防行政の成果によるものであろう。
にもかかわらず、「電気機器」「電灯・電話等の配線」「配線器具」に起因する火災件数だけは、着実に数を伸ばしている。件数自体が増え、かつ全体に占める構成比も2倍以上になっている。これは一見、家庭の電化が進み、電気製品が増えたからのようにも思えるが、それではこの違和感は説明できない。
なぜなら、電気製品の安全設計や法規制は年々強化され、事故防止のための構造的進化は止まっていないからだ。多くの家庭に漏電遮断器や温度制御ヒューズが標準装備され、配線の絶縁性能も飛躍的に向上している。つまり「電気製品の進化」と「火災発生のリスク」は、理論上は反比例すべきなのだ。
「電気火災」に分類したがる消防の構造と職員の動機
ここで注目したいのが、火災原因の決定主体が「消防本部の火災調査担当職員」であるという点だ。火災原因が「電気機器によるもの」とされるか、「失火」「放火」「不明」とされるかは、最前線で火災調査を行う消防職員の判断によって大きく左右される。
実は、2000年代初頭まで、こうした火災調査業務において「電気が原因」という結論は敬遠されがちだった。なぜなら、電気というのは原因分析が困難で、知識も専門的で、職員にとって「わからないもの」だったからである。そのため、「原因不明」とされる件数が非常に多く、「電気」は見過ごされがちだった。
しかし近年、消防の採用人気が上昇し、電気に対する基礎知識を持つ若手職員が一定数採用されるようになった。中学レベルの電気回路やコンデンサの破裂、トランスの構造などの知識を持つ職員が火災調査に関与するようになり、「電気的火災」として分類できる可能性を感じる事案に対し、果敢に「電気」としてラベリングを始めた。
これは一見、専門性の向上に見えるかもしれないが、裏を返せば「自分の分析能力の高さを示す実績づくり」の一環ともいえる。原因を「電気」と断定できれば、報告書の構成は精緻になり、査定や上司からの評価につながる。逆に「不明」や「放火」では、技術的貢献が評価されにくい。
こうして、「電気的火災」という分類には、職員個人のキャリア構築上の“うまみ”がある。それが、実際の火災原因とは無関係に、統計上「電気火災」が急増している一因ではないかという見方は無視できない。
火災そのものよりも「書類の見栄え」が重要視される構造
もう一つ重要な視点がある。それは、「火災原因調査」が、もはや被害者や市民の安全向上のための活動ではなく、「報告書を作るための作業」に成り下がっている実態だ。
消防職員が作成する火災原因報告書には、調査内容、写真、見解などがびっしりと記載されるが、形式上「高度な判断」をしたように見える文面が求められる。ここで「電気的原因であった」とすれば、何らかの論理的根拠や電気工学的知見が付加され、他の職員よりも専門的・技術的であるように映る。
しかし、現実には“コンセントの焦げ跡”や“ブレーカーの落ち方”などの表層的な要素から、機械的に「電気火災」と断定しているケースが少なくない。本来であれば第三者機関の鑑定を挟むべきケースですら、「自己完結」し、報告書だけを美しくまとめる傾向がある。
実際、火災が発生した住宅で「コンセントの一部が焼けていた」というだけで、火元がそこにされた例や、「使用中の電気ポットから煙が出たが、火は出ていない」事案が火災として処理された例もある。
本来なら、「自然鎮火し、被害も極軽微」という場合は火災ではなく“異常発熱事案”として記録されるべきである。しかし、火災件数の実績や調査件数の記録が欲しいがために、無理に「火災」へと分類し、しかも「電気」を理由とすることが横行している可能性も十二分にある。
「火災調査」という業務の限界──制度からの切り離しを
火災調査は、本来であれば火災の再発防止や原因特定を通じた予防施策の構築に資するべき業務である。しかしながら、前述したように、その本質を見失い、調査の目的が「報告書の完成」にすり替わっている現状がある。
これは一部の消防職員の問題ではなく、制度設計自体に無理があるからだ。火災調査を担当する職員は、通常の消火活動や救助活動を行う隊員と兼任であることが多い。専門の鑑定士でもなければ、電気技師でも、機械工学の知見を持った研究者でもない。
にもかかわらず、目視とその場の状況証拠、そして時には「勘」と「経験則」で原因を断定しなければならない。これでは、「正確な火災原因調査」など不可能だ。事実、火災調査の精度に対する公的な監査や客観的評価制度は存在せず、書類が整ってさえいればOKとされている。
こうした状況で、火災原因を「電気」とする判断が急増していること自体、制度疲労の現れであり、信頼性を著しく損ねている。そもそも、火災というのは不可逆的現象であり、「完全な原因特定」など存在しえない。電気火災のような目に見えない要因は、なおさらだ。
であれば、火災原因の特定業務は、消防の任務から切り離し、専門の第三者機関に移管すべきではないか。構造工学、電気工学、化学、機械工学など複数分野の専門家がチームで調査する仕組みでなければ、再発防止という本来の目的に資するはずがない。
消防が果たすべきは、「命を守る」ことであって、「火災原因を断定する」ことではない。その業務があまりにも重荷となり、現場職員が無理に「わかっているふり」をしてしまうのであれば、それはすでに制度が破綻している証左である。
おわりに──「電気火災」の増加が示すもの
この20年間で、火災件数自体は大きく減少しているにもかかわらず、「電気的火災」の件数および割合が右肩上がりで上昇し続けている。この現象が示しているのは、電気機器が危険になったのではなく、「電気」と分類したがる消防側の事情である可能性がきわめて高いということだ。
実態としては、過去に「不明」とされていた火災を「電気」と分類することで、専門性の演出や報告件数の確保につながる。実際の危険性が増していないにもかかわらず、統計上「電気」が突出してくるのは、そうした構造の反映に過ぎない。
このような数字が、国の火災予防政策や製品安全基準に影響を与えるとしたら、それはまさに「誤った分析がもたらす社会的損失」である。制度疲労と専門性の欠如、そして自己評価のために歪められた「火災調査業務」は、早急に見直されるべきだ。
消防という組織が、本来の使命である「命を救う」ことに集中できるようにするためにも、火災原因調査という業務は外部機関へと移管するべきである。それが、真に正しい判断と分析、そして防火意識の向上へとつながる第一歩となる。