日勤救急隊の導入が示す「効率化を拒む消防組織の構造的矛盾」

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大和市の新たな試み――日勤救急隊の導入

2025年4月、大和市消防本部が新たに「日勤救急隊」を発足させたというニュースが報じられました。これは、午前8時30分から午後5時15分まで、日中の時間帯に限定して活動する救急隊で、日中の出動件数が集中するという現状を踏まえたものです。大和市の発表によると、救急出動の約7割がこの時間帯に発生しており、既存の体制だけでは十分な対応が難しくなっていたことから、臨時的な対策として設けられた措置です。

この取り組み自体は、現場のニーズに柔軟に応えるものとして一定の評価を受けているようです。しかしながら、この「日勤救急隊」という施策が意味するものを深く掘り下げてみると、消防組織の根本的な問題が浮き彫りになります。

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24時間交代制の限界と時代錯誤な運用実態

日本の消防機関は、多くの場合で24時間勤務の交代制を採用しています。これは、日夜を問わず緊急事態に対応する必要があるという特殊性を考慮した制度であり、長年にわたり続けられてきました。しかし実態を見ると、日中に業務の大半が集中しているにもかかわらず、非効率な勤務シフトが温存されているのが現状です。

日中に救急要請が集中しているのであれば、本来であれば24時間勤務制を見直し、シフト勤務を導入することで人員の最適配置と負担軽減を両立できるはずです。それにもかかわらず、既存の制度に固執するがゆえに、「日勤専門部隊」という一見柔軟なようで、実は対症療法にすぎない施策が打ち出されているのです。

このような構造は、消防組織内に根深く存在する「制度への過剰な信奉」と「変化への拒否感」を象徴しています。なぜ、勤務体制そのものを見直さず、新たな部隊を追加するという“ツギハギ”の対応にとどめるのか。それは、組織全体における抜本的な変革を回避しようとする思考停止の表れといえるでしょう。

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人員増加は根本解決ではない――制度疲労を覆い隠す“方便”

大和市はこの「日勤救急隊」の創設にあたり、今後の人員増加も視野に入れているとしています。一見、頼もしい施策のように思えますが、これもまた根本的な問題の解決にはつながりません。そもそも、日勤の部隊を新たに作らなければ現場が回らないという時点で、現在の勤務体制そのものに限界が来ている証拠です。

加えて、単なる人員増加では救急要請の質的な変化には対応しきれません。高齢化社会において、救急要請の内容は多様化・複雑化しています。その中で、24時間勤務を前提とした硬直的な勤務制度を維持し続ければ、職員の疲弊は避けられず、サービスの質も低下する可能性があります。

そして何より、勤務制度の見直しを回避するために「日勤隊」という補助的存在を生み出すという行為は、責任の所在をあいまいにし、制度疲労を覆い隠す方便に過ぎません。

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変革を恐れる組織」が招く歪み

なぜ消防組織は、ここまで変革に消極的なのでしょうか。制度疲労が明白であるにもかかわらず、既存の体制を頑なに守り、実質的な改善には手を付けない。そこには、組織文化として根付いてしまった「現場の精神論」や「慣習主義」が見え隠れします。

また、外部からの意見や改革案に対しても、防衛的・閉鎖的な姿勢が見られることが多く、制度の刷新が進みにくい土壌が形成されています。「変えること」のリスクばかりが強調され、「変えないこと」のリスクは無視されがちです。

その結果、本来であれば市民の安全を守るためにもっとも柔軟であるべき組織が、自らの非効率な制度を温存し、現場にそのツケを押しつけ続けているのが現実です。