消防士になるにあたって、地元の消防本部、近隣政令指定都市の消防本部、東京消防庁などどの消防本部を受験するかってのは非常に重要なことです。
職業としての消防士は非常に魅力的なものですが、消防本部ごとの当たり外れはあります。
消防士になってから5年以内に辞めてしまう人は少なくありません。
辞めていく理由は、親族の理由や稼業についてなどもありますが、「こんな組織だと知っていれば消防には入らなかったのに」と言って辞めていく人も少なくありません。
せっかく採用試験を突破して入職したにもかかわらず、「こんなはずじゃなかった」と辞めていくようなことは避けたいところです。
受験する消防本部の風土を確認する方法
過去の懲戒処分を調査
消防組織において懲戒処分がされた場合、その事案について公表するか否かについては、全国で統一的な決定事項はなく、その消防組織ごとの裁量によるところが多くなっています。
例えば、「淫行事案」は公表するけれど、「スピード違反」は公表しないとか。
そのなかでも懲戒処分の内容について公表された場合は、消防本部か市町村のホームページに概要が公開される場合が多いです。一部の隠ぺい体質のある消防本部では、報道機関に飲み公表し、ホームページでの公表をしない場合もあります。
そのため、普遍的な尺度によって分析することは難しいですが、懲戒処分が多い場所や極端に少ない場合には避けるべきです。
最も危険なのは、年度によって懲戒処分件数の上下が激しい消防本部です。
例えば、令和元年度には10件の処分があったにも関わらず、令和2年度の処分件数が0件であった場合、どんな状況が読み取れるでしょうか?
10件の処分がすべて同じ理由である場合は除きます。1件の公金不正使用に10人の職員が関係していたとかって場合です。人身事故、スピード違反、窃盗、無断欠勤、放火・・等々、10件とも別々の理由であると分かりやすいですね。
年度単位でここまで処分件数に差が出来る原因はなんでしょうか?
令和元年度中に懲戒処分事案が多かったことから、職員への教育を重点的に実施し、令和2年度には0件になった?
そんなことはあり得ませんよね。そんな教育方法があるのなら、いますぐに全国に展開し、日本中のスピード違反と人身事故を根絶してほしいところです。
原因はこれです。
懲戒処分の事務処理を担当する職員の意識に差があるから。です。
年度単位で担当職員が入れ替わったことが原因で、懲戒処分の件数に差が生じたってことです。
令和元年度に担当した職員は懲戒処分に関連する事務処理を得意としていたが、令和2年度に担当した職員は懲戒処分関連の事務が不得意だったんでしょう。
懲戒処分を得意とする職員とすれば、積極的に懲戒処分をして、自分の人事評定を上げたいと考えることでしょう。本来ならば処分の対象とならないような事案であっても、事実を歪曲したり不正な証言を引き出したりして、積極的に懲戒処分事案を増やし、自身の評価につなげていきます。
逆に、懲戒処分を不得意とする職員とすれば、懲戒処分の事務処理をした結果事務処理ミスが発生すると人事評定に響くため、できる限り隠ぺいや事実を歪曲をして懲戒処分に至らなかった、非該当事案として処理することとなります。
消防組織において頻発して問題となっているパワハラ、セクハラ事案において、解決の最後の砦とも言える人事担当部門の職員が、上記のような感覚で仕事をしているとなると、その組織は信用に値するでしょうか?
パワハラやセクハラの無い組織を探して、入職することがベストかと思いますが、感覚的な問題も含まれるため、なかなか難しいことです。
最低でもパワハラやセクハラが発生した際に適正に対処することのできる能力のある組織を選ぶことは不可能ではないと思います。
消防年報を確認
見る場所は主に2か所です。
職員情報
採用から5年以内に退職している人が多い組織は要注意です。
民間企業から見れば5年以内の退職は珍しいことではないですが、地方公務員という特殊性から見ると、5年以内の退職は非常に珍しいことです。
退職に至った理由までは公表されていませんが、若い職員が退職したかどうかは分かります。
例えば仙台市の消防年報を見てみましょう。
平成31年4月1日時点での職員数を見てみると、
- 1年目36人
- 2年目40人
- 3年目40人 となっています。
ここで注意が必要なのは、階級が消防士である人数だけ確認してください。3年目の職員に消防指令長が1人いますが、この人は関連機関に出向していて、戻ってきた人です。関連機関への出向時点で何年か後に組織に戻ってくる契約で出向しますので、一度退職し、改めて採用したというロジックになります。
それでは、翌年の令和2年4月日時点での職員数を見てみましょう。
- 2年目36人
- 3年目39人
- 4年目39人 となっています。
どうでしょう?
2人辞めていますね。ざっと懲戒処分の状況も調べましたが、令和元年度中に若い職員が懲戒免職等になった記録は見当たりませんでした。
つまり、本人の都合により消防本部を退職いしたことになりますね。116人中2人が辞めたことになりますね。
2/116を多いと捉えるか少ないと捉えるかですが、これは多くも無く少なくもなくといったところですかね。これが6人とか7人となっていたら、3年以内の離職率が5%近くなりますので、ちょっと注意が必要ですね。
予算情報
消防年報には概要や主な事業について記載がされていますが、予算関連以外のページに書かれている内容は毎年のコピペである可能性が高いですが、予算関連のページに記載されている事業概要は最新のものや、現在力を入れている事業である可能性が高いです。
全体の概要については、予算額の縛りがないため毎年同じことが記載されますが、予算関連のページでは予算が付かなかった事業や、国などから大きな予算が分配されてしまった事業は記載せざるを得ないため、毎年見直しが行われており現状を反映していると言えます。
消防本部選択に際して確認してほしいのは、実効性のある事業が記載されているかどうかです。
例えば、「地震対策になる家具転倒防止グッズを各家庭に配布するために、市内全家庭を戸別訪問します」なんて書いてあるのは危険ではないかと思います。
このご時世的にも、戸別訪問営業等を展開しているのはごく一部の保険業者や不動産関連業者、物販営業、宗教勧誘とNHKくらいなもんです。そのため、不要なトラブルを避けるためにも宗教勧誘や物販営業なんかが疑われる場合には、応答しないのがベターな選択である場合もあります。
昨年実施された国勢調査でも多くの自治体で戸別訪問を中止しています。
そんななか公的機関が戸別訪問実施なんで事業が予算化された上に実施される状況というのは、その組織の層の薄さや、レベルの低いワンマン組織であることが予想されます。
良い意味でワンマンであれば是非とも選びたいと思うところですが、年功序列で定年制のある組織でいい意味のワンマン組織が継続することは絶対にありません。ワンマン組織のワンマンが定期的に入れ替わり、悪い時代が必ず訪れます。
組織としてのブレーキが正常に作動しているかどうかは確認しておいた方がいいですね。
直接問い合わせる
実施できる時期に限りはありますが、直接問い合わせることにより得られる情報もあります。
ただし、パワハラがあるかとかセクハラがあるかといった内容はなかなか公にしてくれはしないので、得られる情報は限定的です。
大切なのは、隠ぺい体質の組織であるかどうかです。隠ぺいされて一番困るのは、やはりパワハラやセクハラですよね。せっかく消防士になったのに、毎日のように罵声を浴びせらられ、無意味ではないかと思われる訓練と称する行為により身体的な苦痛も与えられるようでは嫌ですよね。そんな時に助けを求めた先の人事関連部門が隠ぺい体質で、パワハラもセクハラも無かったことにされてしまいます。
毎日の嫌がらせに耐え続けるか、辞めるかの選択を強いられることとなってしまいます。
人事担当部門に問い合わせる内容の例を記載してみます。メールやメールフォームの問い合わせ方法が用意されている場合もありますが、とりあえず一回目は電話で問い合わせてみましょう。
問い合わせの時期は9月以降が良いと思います。
再来年度に採用試験受験を検討しているのですが、〇〇消防本部さんでは消防学校は採用直後からですか?それとも一年間現場研修の後に消防学校入校ですか?
質問の内容は特に意味のないものですが、注目するべきは回答方法です。
前提は消防本部の人事担当部門の担当者にとって、この電話に丁寧に回答するメリットが無いことと、多少邪険に扱った対応をしたとしても、クレームが入る可能性が著しく低い電話であるということです。電話口に出た職員によっては、「面倒な電話だからさっさと切りたい」と思うことでしょう。
では回答方法のどの部分に注目するか。
担当者に繋ぎますを2回以上繰り返した場合は要注意です。
簡単な質問であるがゆえ、面倒な電話に対応したくないという思いから、下っ端へ下っ端へと電話が回されて行っている状態です。
人事担当部門にまでしっかりと不必要な上下関係が根を張っており、適正な組織人員管理が出来ていない状況の現れの一つであると言えるでしょう。
次は、電話口の担当者が名乗らないです。
地方公務員にとって電話で名乗るのは基本的なことです。そんななか名乗らないのは、クレーム(現場の消防士の不適切な行動や報道された不祥事事案への意見)や不当要求など、さまざまな不適切な電話が掛かってきている組織であり、名乗ることによりターゲットにされることを避けたいという思いからである場合があります。
つまり、そのような組織であるということです。
まとめ
消防士という職業を選ぶ以上、パワハラやセクハラが絶対に無い組織を事前に調査することは絶対に不可能です。
起こることを未然に防ぐことは出来なくても、起こってしまったことをしっかりと対処できる組織かどうかを見分けることは不可能ではありません。
当然対処するのは組織の長であるべきですが、その長は1~3年ごとに入れ替わってしまうため、組織風土の調査が必須です。組織風土の現れはその組織の人事担当部門に見て取ることができます。
パワハラや組織の不正と戦った結果、自殺追い込まれてしまったものの、遺族の訴えもむなしく「パワハラの事実は確認できませんでした。第三者機関による調査結果です」と腑抜けたことを言っている消防本部もあります。第三者機関とは名ばかりで、肩書を変えただけの内部の人間や、しっかりと組織の息がかかった中立的ではない人たちの集まりです。
消防士になって活躍できるかどうかは、専門部隊や最新の特殊車両があるかどうかではありません。目的を共有し、一丸となって活動ができる組織に属するかどうかです。
是非とも前途明るい未来の消防士には選択を誤らずに、適正な人員が運営している消防組織を選択したもらいたいと願っています。
下調べをしっかりとしても、パワハラが多く、それらが揉み消されているような悪い組織に入ってしまうこともあると思います。
その場合の対応については下記記事をご覧ください。