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道頓堀ビル火災の2名殉職を、予算化物語と出世のインセンティブにすり替える消防組織

大阪道頓堀

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はじめに

 2025年8月18日、大阪・道頓堀の雑居ビル2棟で火災が発生し、消火中に天井が崩落、避難経路を失った2名の隊員が死亡した。

 市は事故調査委員会を設置し、出火状況や建材、装飾広告などを含めた検証を進めている。

 報道では、6階建て側1階の室外機付近から出火し、外壁の装飾や看板を介して隣接ビル上階へ延焼した可能性が指摘されている。死因は酸素欠乏による窒息とされる。

 現場は道頓堀川に面し、高所放水や車両展開に制約があったとの見立ても出ている。

参考記事 ベテラン不在が露呈した大阪ビル火災 22歳と55歳が同じ死を遂げた消防組織の皮肉

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火災現場とは

 天井崩落は予兆困難であっても、火災の延長線上にある前提危険である。つまり、火災現場では必ず起こることなのである。(もちろん早期に消火が完了すれば、起こらない場合も当然ある)

 よって崩落が起きても人的被害を出さない活動設計が要点だ。

 なにも、隕石や戦争のような非現実リスクを想定しろと言っているのではない

 火災時に現実に起こり得る崩落・落下物を前提に、進入可否・進入様式・撤退基準・二重の退避路・隊外救出体制を組み込むべき、というごく当たり前の話である。

 消防庁の安全管理マニュアルも、構造・建材・倒壊危険の見立てと安全行動の徹底を求めている。

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原因を三層で整理する

 本件は、以前の記事と同じ枠組みで【直接原因】【間接原因】【背景原因】の三層に分けて考える。
参考記事 道頓堀火災を三層で検証する― 直接・間接・根本で捉える殉職事故

【直接原因】
・屋内活動中の天井崩落により避難路が途絶、酸素欠乏で死亡に至った事象そのもの。

【間接原因】
・崩落は予兆困難な場合があるが、だからこそ崩落が起きても死なない設計が必要。たとえば、進入の深さ制御、上方危険の事前処置や評価、撤退の発火点、退避路の冗長化、隊外の即応救出体制、指揮所の情報統制などである。

【背景原因】
殉職のたびに、議論が装備や施設へ直進する組織文化。不足列挙からの資機材の新規調達、新しい訓練施設の建設、導入主導者の美談化という回路が働きやすい。ここで間接原因の時系列再現と意思決定の吟味が後景化し、背景の物語のみが残る。
・外壁装飾や看板を介した縦方向延焼と、隣接ビル上階への侵入。窓破損や外皮燃焼が延焼促進要因になった可能性。
・現場ビルは過去の立入検査で消防法令違反を複数指摘され、一部は未改善だったとされる点。そしてその違反を放置した消防側ではなく、建物管理者側に責任を擦り付ける。
・道頓堀川沿いという立地に起因する展開制約。はしご車の配置や高所放水の難しさ。
・2003年の神戸市住宅火災でも崩落が死傷を拡大させた。歴史的教訓があるにもかかわらず、意思決定の透明化と撤退基準の共有は、物品整備より評価されにくい。

すり替えの典型パターン
資機材の装備不足訓練環境不足を先に並べ、進入判断や撤退判断の根拠検証を薄める。
外的要因(看板・違反・道路条件)を必要以上に拡大し、内部の意思決定を検証の対象から外す。
・最終的に新装備導入、新施設整備が予算化され、気が付いた頃には殉職の議論は風化してしまい、導入した人の手柄という物語が残る。だが、それは再発防止とイコールではない。

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検証の順番を間違えない

 まず間接原因の時系列を公開・固定し、その後に間接・背景を重み付けする。最低限、次を時刻付きで可視化したい。
・到着から事態悪化までに、誰が何を根拠に進入・撤退・放水様式・退避路を決めたか(無線・カメラ・指揮板・隊内交信ログ)。
・崩落危険評価や上方処置の実施有無と限界。
・外壁延焼への外部防御や上階防御の選択肢と、その可否の根拠。
・立入検査で得た違反情報を、事前計画や指揮判断に反映できていたか。

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よくあるコメントの考えの甘さ

崩落は予見困難だから免責、ではない。予見困難な事象が現実に起こる前提で、活動設計を組むべきだ。

違反建物が悪いも事実だが、それは内部判断の検証を免除する理由にはならない。両方検証する。

道路条件が悪いなら、そもそもの進入様式と上限リスクをどう再定義したかが問われる。

逃げ遅れ情報が不明なら進入するというのは、完全に間違い。逃げ遅れがいたとしても、必ず危険を冒して進入するわけではない。京都アニメーション火災でも、埼玉の道路陥没事故でも、判断により進入しなかった。新潟中越地震で崩落斜面から子どもを救出した東京消防庁も激しい個人と組織の葛藤から進入を選択している。

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出世インセンティブへの警戒

 装備や施設の導入は見えやすく、報道に乗りやすく、評価されやすい。一方で判断の透明化・撤退線の厳格化・失敗の共有は見えにくい。

 ここに出世インセンティブの非対称がある。今回も新装備・新施設の導入へと議論が流れるだろう。しかし、それは間接原因の解像度を上げる作業を置き換えてはならない。

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おわりに

 今回の道頓堀火災は、外壁装飾を介した延焼、繁華街特有の展開制約、過去に指摘された違反という難題が重なった。

 だとしても、核は崩落を前提危険としたうえで、どの時点で、どの根拠で、どの撤退線を引いたのかである。

 ここをあいまいにしたまま装備や施設の話に流れるなら、それは予算物語と武勇伝に回収されるだけだ。

 殉職を出世の踏み台に変える文化を止める第一歩は、静かで執拗な時系列検証と公開、そして直接・間接・背景の三層分類の維持である。

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