道頓堀火災を踏まえて:違反放置は誰の責任か
建物側の管理不備はもちろん重大だが、行政=消防にも強いカードがすでに与えられている以上、使い切れていなかったなら行政責任は免れない。
具体的には次の3点だ。
1 いつでも入れる
消防は法4条で立入検査・資料提出命令・報告徴収の権限を持つ。
2002年の制度見直し以降、夜間営業の雑居ビルでも必要な時間帯に実施できる運用が明確になっている。
繁華街では夜に見に行くのが前提であるべきだ。
2 止められる/公示で足跡が残る
危険度が高いのに是正が進まなければ、措置命令(5条)や使用の禁止・停止命令(5条の2)を発動できる。
命令を出したときは公示が義務づけられており、行政の執行が公的に記録される。
踏み込むべき局面で命令に至っていないなら、見逃し・躊躇の疑いが残る。
3 即時に知らせられる
2013年以降は違反対象物の公表制度が全国展開し、重大違反は即時公表が可能。
各消防本部の公表ページへのリンク集も消防庁が整備している。
利用者にリスクを可視化し、関係者に社会的プレッシャーを与える仕組みだ。
運用が遅い・甘いのは明確な実務不履行と言える。
結びに
結論として、道頓堀のような複合用途・夜間型の街区では、
①夜間を含む立入の常態化、
②レッドライン到達時の命令・公示の即断、
③重大違反の即時公表
――この三点を速度と頻度で回せるかが行政側の責任領域だ。
制度はある。
あとは使い切る意思と運用である。
なお、殉職要因の三層は要約すれば直接=酸欠/間接=現場指揮/背景=火災そのものであり、行政の運用不全は背景の危険度を押し上げる側の問題として切り分けて論じるのが適切だ。
年表
年 | 施策・制度 | 中身(要点) |
1974(昭49) | 消防法 大改正(翌1975点検報告施行) | 設備の設置義務を既存へ遡及・点検報告を制度化=違反把握と是正の土台整備 |
2002(平14) | 歌舞伎町火災を受けた大改正 | 立入検査の時間制限を撤廃(夜間等も可)/措置命令・使用停止命令の発動要件を明確化/命令主体の拡大(消防吏員も) |
2003(平15.10.1施行) | 小規模複合ビル対策の本格運用 | 自火報の義務拡大(複合用途300㎡基準、特定一階段は面積不問)と一体で、違反是正の実効性向上(検査→命令→是正) |
2011(平23) | 違反対象物の公表制度(東京都で先行導入) | 条例に基づき重大違反を公表。テナント名も対象になり得る運用を開始(以後、全国に波及) |
2013(平25.12.19) | 消防庁が全国実施を通知 | 重大違反は命令の公示を待たず即時公表へ。各本部は条例改正等で制度化(その後、推進通知を重ねる) |
2015–2017(平27–29) | 公表制度の普及・運用整備 | 実施推進通知、HP運用の事務連絡、重大違反管理ソフト配布などで運用を標準化 |
2018–2019(平30–令元) | 小規模向け機器基準の明確化 | 特定小規模施設用自火報の整理により、是正のハードルを下げ違反解消を後押し(複合ビルの小テナントに有効) |
2022–2024(令4–6) | 立入検査の運用明確化・標準化 | 立入検査標準マニュアルで、違反処理の区分(警告・命令・告発・代執行等)を整理し運用を平準化 |