- 「消防吏員」は明文で定義するされていない。
- 消防職員=消防吏員+その他の職員という構成
- 消防本部および消防署に消防職員を置く(消防組織法第11条)
- 消防庁の資料で消防吏員を定義
消防職員とは
「消防職員」とは、地方公共団体の消防機関(消防本部・消防署)に勤務し、消防事務に従事するすべての職員の総称です。消防職員は地方公務員法上の「一般職」に属する常勤の地方公務員であり、消防行政に関する業務に携わります。ここでいう消防事務には、火災予防や消火活動、救急・救助活動、消防設備の維持管理、消防に関する庶務など消防本部の所掌事務全般が含まれます。
消防組織法上も、「消防本部および消防署に消防職員を置く」旨が定められており(消防組織法第11条)、消防職員は市町村長や消防長の指揮監督の下で消防事務を行います(同法第14条)。
消防庁(総務省消防庁)が所掌する業務として「消防職員(消防吏員その他の職員をいう。以下同じ。)および消防団員の教養訓練の基準に関する事項」が掲げられており、「消防職員」という用語が**「消防吏員」とその他の職員を含む広い概念**であることが示されています。つまり、消防職員の中には、後述する現場活動要員である消防吏員と、事務職などその他の職員の両方が含まれるということです。
消防吏員とは
「消防吏員」(しょうぼうりいん)は、消防職員のうち階級を有し、消火・救急・救助・査察など消防の現場業務にあたる者を指します。消防庁の資料でも、消防吏員は「消防長により採用され、一貫して消防事務(火災・救急等への対応、査察業務等)に従事する一般職の地方公務員」であると定義されています。
消防吏員は消防本部で消防隊員(いわゆる消防官)として常備消防の中核を担い、火災現場での消火活動や救助・救急対応、消防用設備の検査や防火査察など専門的・実戦的業務を行います。
消防吏員には階級制度が設けられており、その最下位の階級が「消防士」です。階級は消防組織法に基づいて消防庁長官が定めた基準(消防吏員の階級の基準)に従い、市町村の条例で定められており、消防総監・消防司令長・消防司令などから消防士に至るまでの階級があります。
なお「消防吏員」という呼称は法律上の正式名称で、一般には「消防官」とも呼ばれます。消防という職業上、警察官・自衛官にならって「官」を用いることがあり、例えば名古屋市消防局では訓令で「消防吏員の職名は消防官とする」と定め公式に「消防官」の呼称を使用しています。ただし法律上の身分呼称はあくまで消防吏員です。
法令上の位置づけと根拠規定
地方公務員法上、消防職員(消防吏員を含む常勤の消防職員)は「一般職地方公務員」であり、同法の適用を受けます。
消防組織法第16条第1項にも「消防職員に関する任用、給与、分限および懲戒、服務その他身分取扱いに関しては、この法律に定めるものを除くほか、地方公務員法(昭和25年法律第261号)の定めるところによる」と規定されています。
一方、消防団員(非常勤の有償の消防ボランティア)は地方公務員法第3条により特別職とされ同法の適用除外となっています。
つまり、常勤の消防吏員は一般職公務員として地方公務員法に基づき任用・服務が管理されるのに対し、非常勤の消防団員は特別職であり制度上の扱いが異なります(消防団員は報酬や公務災害補償は受けますが服務規定は一部しか適用されません)。
消防組織法では、消防吏員に関するいくつかの重要な規定が置かれています。第16条第2項で「消防吏員の階級並びに訓練、礼式及び服制に関する事項」は消防庁の定める基準に従い市町村の条例で定めるものと規定され、消防吏員の階級制度や訓練のあり方が法令上定められています。
また消防組織法第15条では消防職員の任命権について規定し、消防長は市町村長が任命し、消防長以外の消防職員(消防吏員を含む)は消防長が市町村長の承認を得て任命すると定めています。
このように法律上、消防吏員は消防長の指揮下で採用・任用される専門職員という位置づけになっています。
消防法(消防に関する個別法)においても、「消防長、消防署長その他の消防吏員」に対し一定の権限が付与されています。
例えば消防法第3条では、消防長・消防署長その他の消防吏員は、屋外で火災予防上危険な行為や消火活動の支障となる物件等に対し、その所有者・管理者等に必要な措置を命ずることができると規定されています。
同様に消防法第5条の3でも、防火対象物(建物)において火災予防上危険な状況がある場合に消防吏員が必要な措置を命じる権限が定められています。
さらに消防法の各種規定で、消防吏員は危険物の輸送時の立入検査や火災警戒区域での人員退去命令など、消防機関としての強制措置権限を行使する主体として位置づけられています。
これらの規定からも、法律上「消防吏員」は火災予防・鎮圧や緊急対応の現場で権限と責任を持つ消防職員であることがわかります。
なお、「消防吏員」という用語そのものについて明文で定義する条文は消防組織法・消防法には存在しません。
しかし上記のように法令の文脈上は常に「消防事務に直接あたる階級付与された職員」を指すものとして用いられており、実質的な定義付けがなされています。
消防組織法第4条第2項第5号が示すように、消防職員=消防吏員+その他の職員という構成になっているため、「消防吏員」は消防職員の下位区分であると法的に整理できます。
実務上の区分と解釈
法令上明示的な定義がなくとも、実務においては消防職員と消防吏員は明確に区別されています。消防庁や各自治体の資料では概ね以下のように整理されています。
- 消防職員:消防事務に従事するすべての一般職地方公務員の総称。消防本部・消防署に勤務する常勤職員全員を指し、消防吏員とその他の職員の双方を含む概念
- 消防吏員:消防職員のうち、消防長によって採用され、一貫して消防事務(火災・救急対応、救助活動、防火査察など)に従事する職員を指す。いわゆる消防隊員(消防官)として階級を有する消防専門職であり、多くは消防学校での初任教育を受けてから各消防署隊員となる。
- その他の職員:消防本部所属ではあるが、人事交流や専門職(技術職・事務職)として一定期間消防事務に携わる職員。消防事務全般を補助するが、火災現場での消火・救急活動には直接従事しない職員を指す。市町村役場等からの出向者や庶務・会計担当の職員などが該当し、消防吏員ではないが広い意味で消防職員に含まれる人員です。
上記のとおり、実務上は「消防吏員=現場活動要員」「その他の職員=事務・技術要員」という区分で運用されています。
消防吏員は常勤消防職員の大多数を占めており、平成28年時点で全国の消防職員約16.3万人のうち消防吏員は約16.1万人とされています。
つまり消防職員の約99%が消防吏員であり、その他の職員は1%未満に過ぎません。
このことからも、一般に「消防職員」といえばほとんどは消防吏員(消防官)を指す場合が多く、両者の概念は密接に関連しています。
ただ制度上・用語上は上記のような包含関係になっており、法律に基づく正式な身分呼称として消防吏員とその他職員を総称する場合は「消防職員」と呼ぶ点に留意が必要です。
まとめ
以上を整理すると、「消防職員」は地方公共団体の消防機関に属する職員全体を指す言葉であり、その中核をなす現場消防員が「消防吏員」です。
消防吏員は消防士・消防司令などの階級を有し、消防活動や消防法令の執行にあたる専門職員として法令上位置づけられています。
一方、消防職員には消防吏員以外の事務職等も含まれますが、その数は僅少であり、多くの場合両者は同じものと扱われます。
法令では明示的定義こそないものの、消防組織法や消防法の条文から消防吏員=「消防長に任命され消防事務に従事する一般職地方公務員」との理解が導かれ、各自治体や消防庁もそのように解釈・運用しています。
要するに、消防吏員は消防職員のうち消防隊員(消防官)として活動する者を指し、消防職員はそれを包含する広い概念であるという明確な区分が存在するのです。