「安全管理意識の崩壊──機能不全に陥る消防組織」

消防ニュース
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繰り返される“想定外”の事故が意味するもの

 本来であれば、消防という組織は「想定外」を許されない存在である。火災現場、救急搬送、災害対応──いずれの任務においても、二重三重の安全対策が講じられていなければならない。
しかし近年、こうした「当たり前」が完全に崩壊している現実が明るみに出てきている。

 その象徴とも言えるのが、愛知県犬山市で起きた救急車のインロック事件だ。根本原因は──安全管理に対する意識の低さだ。

 このような凡ミスが現実に起こるということは、緊急対応を担う組織として致命的である。しかも、対応のミスによって患者の搬送が大幅に遅れたという点からも、事態の深刻さが浮き彫りになる。

 鍵を中に置いたままドアを閉めてロックされた、スペアキーを届ける隊員が間違った場所へ向かった、車両のシステムが原因でドアが開かなかった──こうした事象は、いずれも「起きてはならない」が「起こり得る」範疇にある。それを組織として想定し、常に予防していく姿勢が求められていたはずだ。たとえ、インロックが電子機器のシステムエラーで発生したものであったとしても、それは許しにはならない。想定しておかなければならないことだ。

 だが現実には、その「想定」自体が抜け落ちている。そして、この構造的な甘さが、次なる事故を生む温床となっている。

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根本的に欠如している「最悪の事態」を想定する力

 消防組織における安全管理の本質とは、「不測の事態を前提にした行動計画」に他ならない。つまり、起こり得るトラブルや機器の不具合、環境の変化に対して、“それが起きる前提”で対策を構築しておくことが必要不可欠だ。

 ところが、今回のインロック事案や、ドアが開かず患者が搬送できなかったケースは、この想定力が根底から崩れていることを物語っている。

 たとえば、電子キーのインロックは、現代の車両では完全に排除することは不可能である。であれば、対策は幾通りも考えられた。全隊員がスペアキーを携帯する。スペアを車外の特定箇所に安全に隠す。解錠手順のマニュアルを全隊員が習得しておく──こういった基本的な対策すら実行されていない現状は、組織全体の怠慢と言われても仕方がない。

 さらに問題なのは、「スペアキーを届ける隊員が搬送予定の病院と間違える」というミスである。これは単なる誤認識ではなく、複数のチェック機構が存在していれば起きるはずのない人為的ミスだ。人はミスをする──その大前提を無視して、二重三重の確認プロセスを省いた結果が、今回のような事故につながっている。

 消防という組織の性質上、「絶対に起こしてはならないミス」がある。緊急走行中の交通事故がそうであり、救急活動中の車両トラブルも同様だ。交差点に信号無視の車が突っ込んできても、それを回避する判断と運転技術が求められる。極端な話、故意に衝突してくるような車両があったとしても、それを回避できるような道筋を選ぶことすら求められるのである。

 それこそが、救命を担う者に課せられた責任であり、求められる覚悟だったはずだ。しかし、今の消防にそれがあるかと問われれば、首を縦に振れる人間は少ないだろう。

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消防組織は既に腐敗の段階にある

 安全管理の欠如やトラブル発生時の初動対応ミス──これらの問題は、単なる現場の個人の失敗ではなく、消防組織そのものが機能不全に陥っていることの象徴だと考えるべきだろう。

 残念ながら、消防という組織は、時間と共にその内部で腐敗が進行している。これはあくまで比喩ではなく、構造上の“老化”ともいえる。現場を支える職員の知識・技術のアップデートが停滞し、組織の風通しが悪くなり、過去の成功体験や慣習にすがり続けるような体質が染みついてしまっている。

 民間企業であれば、少しのトラブルや社会的批判を受ければ、再発防止策が矢継ぎ早に検討・実施される。なぜなら顧客を失えば、企業としての存続に関わるからだ。一方、消防組織はそうした外的圧力が極めて弱い。税金で運営される公的機関であるがゆえに、危機感が醸成されにくく、自浄作用が働きにくいという構造的な欠陥を抱えている。

 さらに致命的なのは、「現状に疑問を持たない者たちだけが残っていく」という逆選抜の構図である。優秀で向上心のある職員が失望し、組織を去っていく。一方で、思考停止している職員や、現体制にしがみつくことで安泰を得ている者たちは、組織にとって都合の良い存在として残り続ける。そうして、組織は静かに、しかし確実に腐っていく

 象徴的だったのは、先日起きた八潮市での道路陥没事故における消防の対応である。危険性が明らかな現場で、初動が遅れ、適切な広報も行われず、地域住民の不安と混乱を助長した。かつての消防であれば、まず安全確保を最優先し、自治体や警察と連携して情報発信にも注力していたはずだ。それが今では、「なぜそんな対応をしたのか」とすら問われない、問える人材もいない、という末期的な状態にある。

 もはや、現場での小さな事故や失策を取り上げて改善を期待するような段階ではない。組織そのものが機能不全を起こしている──そう断じるしかない。