カテゴリー:消防不祥事
事実
処分の概要
大阪市消防局は2026年6月30日、勤務時間外に動画投稿サイトやSNSへ動画を投稿し、広告収入などを得ていたとして、西消防署に所属する23歳の男性消防士(消防吏員・階級は消防士)を停職3か月の懲戒処分にしたと発表した。処分は同日付で行われた。
市消防局の報道発表資料によると、この職員は令和7年(2025年)9月頃から令和8年(2026年)5月18日までの約8か月間に、複数のSNS上へ動画を250回程度投稿し、広告収入などで少なくとも合計140万円程度の収益を得ていた。処分の理由は、任命権者の許可を得ずに継続的な収益活動を行っていたことにあるとされる。
報道各社の記事では、投稿されていたのは飲食店などを紹介するグルメ系のショート動画が中心で、消防業務に直接関係する内容ではなかったとされている。
発覚の経緯
発覚の端緒は、2026年5月に市消防局へ寄せられた匿名の情報提供だったと報じられている。その後の内部調査で、投稿の回数や収益の実態が確認されたとされる。市消防局の聞き取りに対し、この職員は、兼業が認められないことは認識していたが、消防業務と関係のない内容なので発覚しないと考えていた、という趣旨の説明をしたと報じられている。
兼業をめぐる制度
地方公務員は地方公務員法により、任命権者の許可を受けなければ、営利企業を営むことや、報酬を得て事業・事務に従事することができないと定められている。動画投稿による広告収入がこの「報酬を得て事業に従事する」行為に当たると判断されれば、無許可での実施は同法違反に該当する。近年は動画配信やSNSでの収益化が一般化しており、公務員の副業・兼業をめぐる線引きが各地で問題になっている。
他都市の類似事例
類似の事案は他都市でも公表されている。和歌山市消防局は2022年1月11日、勤務時間外にオンラインゲームの実況動画などを314本投稿し、約115万円の広告収入を得ていた北消防署の消防士長(当時33歳)を、減給10分の1・1か月の懲戒処分とした。この職員は家族名義の口座を収益の受け取りに使っていたとされ、再生回数は合計で約227万回に上っていたと報じられている。市消防局は同時に、管理監督者である消防署長を厳重注意としている。
大阪市消防局は職員の不祥事や懲戒処分について報道発表資料として継続的に公表しており、今回の事案もその一環として公表された。なお、今回の大阪市の事案および和歌山市の事案とも、報道および行政の発表で職員の個人名は公表されていない。
論評・意見
処分の妥当性
事実関係を前提にすると、今回問われたのは動画の内容そのものではなく、「許可を得ずに継続的な収益活動を行った」という制度違反の部分だと見られる。グルメ紹介という業務と無関係の内容であっても、収益を伴う継続的な活動であれば兼業規制の対象になり得るという点が、あらためて示された事案だという指摘ができる。
処分の重さについては、評価が分かれ得るところだ。SNSでの情報発信はいまや広く行われており、公務員が私的な時間に発信すること自体を過度に萎縮させるべきではないという意見がある。他方で、収益額が140万円程度と小さくなく、期間も約8か月と一定の長さに及んだこと、本人が兼業の禁止を認識していたとされることを踏まえると、常習性や利益の規模、規範意識の欠如を重く見て停職という判断に至ったのではないか、との見方もできる。
和歌山市の事案が減給1か月にとどまったのに対し、今回は停職3か月と差がある。金額や期間、投稿本数、発覚後の説明の内容といった個別事情の違いが量定に影響しているとの指摘がありうるが、消防本部ごとに兼業に関する処分の相場観にばらつきがあるのではないか、という疑問も残る。総務省消防庁や各本部が量定の考え方を整理し、ある程度そろえていくことが望ましいという意見もあるだろう。
浮かび上がる課題
より本質的な課題は、予防の仕組みにあるように見える。動画配信の収益化は誰でも容易に始められる時代であり、「これくらいなら問題ない」と軽く考えてしまう職員が今後も出てくる可能性は否定できない。処分の公表だけで終わらせず、どこからが許可を要する兼業に当たるのか、申請すればどのような範囲で認められるのかを、具体例を挙げて職員に周知することが再発防止には有効だとの指摘がある。
あわせて、匿名の情報提供で初めて発覚したという経緯を踏まえれば、収益活動を申告しやすい相談窓口や、許可制度の運用そのものを見直す必要があるのではないか、という声も出てくると見られる。
消防は住民の生命に直接かかわる仕事であり、組織への信頼が揺らぐことの影響は小さくない。一方で、過度に管理を強めることが人材の確保や職員の士気に響く懸念もある。信頼の維持と、働き方の多様化への対応をどう両立させるかが、各消防本部に問われていると言えそうだ。
