岐阜県中津川市消防本部は12日、119番を受けた通信指令員が指示を誤ったため、救急車の到着が約17分遅れたと明らかにした。患者の80代男性は搬送先の病院で死亡が確認された。同本部は「救急車の到着が遅れたことと死亡との関連は調査中」としている。
同本部によると11日午前、市内の80代男性が倒れたと男性の家族から連絡を受けた知人が自身の自宅から119番。救急車は誤って通報者である知人宅へ急行し、誤りに気付いた知人が再び119番した。通常なら男性宅まで2分程度で到着するところ19分かかった。
通信指令員が、救急車を向かわせる場所を確定させる手順を怠ったという。
引用元:岩手日報
救急車が到着するまでの時間
消防が救急に関する通報を受けてから、救急車が傷病者のいる現場に到着するまでの平均時間はざっくり9分弱です。感染症の影響で統計データの異常値は今後現れるものと思いますが、過去のデータから9分弱と取り扱って問題ないでしょう。
上記の参考値のように2分で着く場合もあれば、16分かかる場合もあるということです。
さらに言えば、1分程度で着く場合もあれば、20分以上かかる場合もあるということです。
救急車が到着するまでの時間を決定する要因
消防署までの距離
まずイメージしやすいのが救急車が待機している消防署までの距離です。
消防署のすぐ隣で救急車を要請すれば、単純に走行距離が短くなるため到着までの時間が短くなるということです。逆に消防署までの距離が長い山間部等で救急車を要請すれば、走行距離が長くなるため救急車到着まで時間がかかることになります。
2番目、3番目に近い消防署までの距離
少々イメージしにくいですが、2番目、3番目の消防署までの距離も重要な要素となります。
地域にもよりますが、救急車は24時間のうち10~12時間程度は事案対応中であって、新規の救急事案に対応することができない状況となります。もちろん、熱中症時期や都市部での路面凍結時などは救急事案が増えてしまい、14時間以上も稼働している場合もあります。
ここはあくまでも試算なので、12時間としておきましょう。
すると、最も近い消防署の救急車が稼働中の12時間は2番目に近い消防署から救急車が駆け付けるということになります。さらに、2番目に近い消防署の救急車も同じ時間に稼働中であった場合には、3番目に近い消防署から、その次、その次となっていくわけです。
1日に12時間も稼働する救急車を有する地域の場合、2番目3番目の消防署までの距離は近くなりますし、逆に1日に稼働時間が4~5時間程度の地域では消防署と消防署間隔も広くなります。
特別な処置が必要か否か
例えば致死性の感染症、新生児の心肺停止、車内分娩の可能性、工場などで物理的に危険な場所での事故、高速道路上の事故、有毒ガスが充満する可能性のある場所での事故、波浪警報時の沿岸事故、登山道上での転倒事故などなど、特殊なケースは多々あります。
消防本部によっては、上記のような事案に常時対応するだけの資機材が積載されていない場合もあります。救急車の大きさに限りがあり、積載できる資機材の量にも限界があるため、地域特性に応じて積載している資機材に差はあります。
このような場合、対応することのできる救急隊が限られているか、資機材の載せ替えを行ってから現場に向かうこととなるため、現場到着までの時間が長くなることとなります。
通報内容の聴取の困難性
通報者が音声電話を使用することができない場合、日本語が全く理解できない場合、混乱状態にあり会話が成立しない場合、通報者が就学前の子どもである場合などは、聴取に困難な部分が増えてくるため、数秒から数十秒の遅れが生じる場合もあります。
また、今回のような通報者と傷病者のいる場所が離れている場合で、双方ともに同じ市内、同じ町内などにいる場合には注意が必要ですね。
田舎に住む両親や、都心部に住む娘息子からの通報で都道府県を大きく跨いでの通報の場合には、明らかに住所が異なるため、混乱することは少ないですが、それでも注意は必要です。
平均は参考にならない
救急車が通報を受けてから到着するまでの時間には、さまざまな要因が重なり決定するものです。
平均年収にしても、年収が100万円に満たない人から、億を超える人までおり、平均が数百万円となっている。この平均ってはの、あまり参考になりませんよね。例えば、漁師が多く家庭を持つ世帯が多い地域と、都心部の単身世帯が多く正規雇用が少ない地域では、年収の差が大きくあるものと思います。
救急車の平均到着時間もこれと似たようなものがあります。
東京都の都心部と長野県の山間部ではやはり考え方が違うわけです。比較すること自体間違っているのです。
今回の事故について
改めて今回の事故について考えてみましょう。
傷病者宅に向かうべきところ、通報者宅にむかってしまったというミスです。
結果的に、17分程度の遅れが生じたということです。
次の場合はどうでしょうか、ちょっと状況が違うんじゃないかと突っ込みがありそうですが、119番通報を受ける側の困難さを理解して欲しくて書きます。
- 通報者から住所を聴取した際に1と8が聞き取れず、3~4回程度聞き直したことにより、5秒程度遅れた。
- 通報者が●●駅前ビルと●●駅前中央ビルを逆に認識しており、消防側も確認を怠ったため、3分程度遅れた。
- 旅行者からの通報で、●●駅、●●市駅、●●中央駅が存在することを認識しておらず、●●駅前の●●銀行の前で人が倒れたと通報があった。実際には●●中央駅前であり、5分程度遅れた。
- 都市開発により住所の番地変更などが完了しておらず、大字■■1-1と■■1丁目1番が存在する地域があり、偶然同じ苗字の人が住んでいた。逆の住所に向かってしまったため、8分程度遅れた。
もちろん、通報は住所を聞くだけではなく、傷病者の人数や状況、場合によっては電話での応急手当の指導なども必要となり、重責を担っているのは間違いありません。
当然反省するべき事案であり、再発防止策をしっかりと練らなければならないことではありますが、無数の小さな間違いの積み重ねやその他の要因で現場到着までの時間は大きく変動するものなので、次に向かって頑張ってほしいとは思います。
強いて言うのであれば、間違いに気が付いた段階で別の救急車なり別の車両・隊員を現場に急行させることはできたのかな?とは思います。少なくとも、都会の消防本部であれば、遅れた時間を短くすることはできたのではないかと思います。