千葉県袖ケ浦市は消防本部でマタニティー制服を導入した。県内の消防本部では三例目。おなか周りがゆったりとしたワンピースで、普通の制服と同じ濃紺色。中にシャツを着用し、胸元に階級章を着けられる。
同市消防本部によると、女性の採用は二〇二〇年度が初めてで、これまでに二人。一人目の二十代救急隊員が妊娠し、本年度は現場を離れて消防署で事務に当たっている。当初は私服を着ていたが、来庁者から「職員と分かりにくい」との声があった。制服ができ、女性職員は「職場になじみやすく、市民の応対もスムーズになった」と話しているという。
同消防本部は「今後も女性が活躍できる職場として採用を増やしていきたい」としている。(山本哲正)
引用元:東京新聞web
マタニティ制服が愚策である理由
妊娠している事を伝えたくない場合もある
妊娠というライフイベントは非常に喜ばしいことではありますが、人それぞれ感じ方が異なります。
例えば、戸籍上の配偶者が不在の妊娠の場合もあるでしょうし、複数回の流産を経験した後に、不妊治療の末にようやく妊娠することができた場合もあるでしょう、場合によっては同性パートナーで人工妊娠の場合もあるでしょう。ライフイベントは多種多様の捉え方が存在します。
そんななか、妊娠したことを公言したくない場合もあります。業務上の配慮がどうしても必要となった場合には、必要最低限の上司に相談をして担当を割り振ってもらったり、人事部門に相談をして通勤上の配慮を受けたりすることも可能です。
業務上の配慮も、通勤上の配慮も、個人的に承認を得ることができるはずであり、他の職員の過半数の同意を得る必要はもちろん、配慮を受けることについて承認を得る必要もありません。
飲み会での【本日の主役】とかいう襷に近いような、【マタニティ制服】を着せられることは決して心地いいことではないでしょう。
複数の流産を繰り返していた末の妊娠であれば、「どうか今回は無事に産まれてきてください」と願うばかりで、無駄な気遣いなどしたくないはずです。このあたりの心理が理解できない消防本部がこのマタニティ制服を導入するのですね。女性で消防士を目指している方は、消防本部の選び方注意ですよ。一生が決まるという側面もありますから。
妊娠中の女性の体形変化に追いつかない
女性はたった10箇月程度の期間で、大きく体型が変わることとなります。
一方で、消防士が着ている制服というものは、5年間程度は体形の変化が無いものと想定して、オーダーメイドで仕立て上げられているのが一般的です。
基本となる既成サイズを選び、ウエストの微調整、股下の微調整、袖丈の微調整、着丈の微調整、首丈の微調整、ウエストの微調整、胸囲の微調整、スカート丈の微調整など細かく対応している場合もあります。
そのため、発注から納品までは最短で3箇月から4箇月程度かかります。大口の発注となれば、1年近くかかる場合もあります。
マタニティ制服を発注してから3箇月後の体型が予想できますか?ある程度余裕をもって作るとはいっても、なかなか難しいと思いますね。
また、その3箇月後も妊婦であり続けなければいけないというプレッシャーは半端じゃないと思います。
安定期に入ったら職場に報告しようという考えの人が多いと思います。すごく身近な人には報告するかも知れませんが、マタニティ制服の仕立てを依頼する程度となれば、安定期に入ってからと意識するのではないでしょうか。
安定期というと妊娠5箇月くらいです。そこからマタニティ制服を大至急で発注して、納品されるの妊娠7~8箇月です。まもなく臨月ですよ。そして間もなく産前休暇ですよ。
もちろん、このマタニティ制服は公費負担で購入され、職員に貸与されるかたちだと思いますので、税金で購入される服となります。産前休暇に入るまでに何回着るのでしょうか?
勤務上の配慮ができないですよアピール
記事内に【職員とわかりにくい】という文言がありますが、どういう意味なのでしょうか?
区役所、市役所、町役場、村役場、支所、図書館、どこでも構いませんので、地方公務員が働いていそうな場所を想像してみてください。
女性職員は何を着ていますか?制服ですか?スーツですか?私服ですか?
いわゆるオフィスカジュアルとか、場合によってはもっとカジュアルな服装の女性が多いと思います。しかしながら、その人たちが職員と分かりにくいなどということは滅多に起こりません。
この消防本部では、制服を着ていないと勤務しているかどうか分からないくらい勤務時間中に遊んでいるということなのでしょうか。
いずれにしても、制服を着ることと仕事をすることは別です。
出張中は制服を脱ぎますし、議会中は制服を着用しないという消防本部もあります。
消防士の場合、交番勤務の警察官とは違い、いつどこで公権力を行使するのかは決まっているといっても過言ではありません。突然目の前の違反者を発見して消防の公権力を行使して指導するなんてことは滅多にありません。
繁華街や雑居ビル等の一斉査察の際には、予め公権力を行使して行政指導を行うことが分かっていますから。
つまり、消防という勤務の特殊性から考慮しても、常時制服を着用する必要が高い人は少ないということであり、私服(スーツやオフィスカジュアル)であっても、勤務上の問題は一切発生しないということです。
だったら、勤務している人の男性消防士の何人かについて、制服ではなく私服(スーツ等)で勤務させることにすれば問題解決ですよね。
わざわざマタニティ制服なんて作らなくても、0円で問題は解決できます。
さらに言えば、女性職員への無言の圧力もなく、マタニティ制服よりも優れた対策だと言えるでしょう。
マタニティ制服を導入しない方が女性職員が増える理由
消防の制服を着たいから消防士になりたいと思った女性は多いでしょうか?
救急車に乗りたいとか、はしご車を運転してみたいとか、救急服を着たいとかいうのなら、なんとなく動機としては多いと思いますが、事務用の制服を着たいという志望動機の人がどの程度いるのかは疑問です。
消防の採用試験を受けて、制服を着て事務をしたいという人は殆どいませんからね。
晒し者感
世の中の妊婦さんたちは、マタニティマークを付けている人も多くいますが、通勤時のみ付けていて、会社に着いたら外す又は隠すといった人も多くいるようです。
妊婦というだけで変な目で見られるような職場は多くあるということです。
また、マタニティーマークをターゲットにした傷害事件や未遂事件などもあるため、通勤時ですら外す人がいるようです。安定期前の悪阻が酷い時期で、おなかも大きくなっていない時期にのみマタニティマークを付けて、悪阻が落ち着いたらマタニティマークを外す人もいるようです。
マタニティマークを付けるか否かだけで不安を感じてしまうような精神状態であるにも関わらず、【私妊婦です!とデカデカと書いてあるような服装】を無理やり着せられる人の精神的苦痛は測りきれないですね。
消防は超が付くほどの縦社会です。先輩上司に対して意見することは許されないと思って問題ないでしょう。
人事とか総務の職員が、「女性活躍推進のためにマタニティ制服作ったから着てくれ!」と言ってきたら、着ない選択肢は無いのです。着なければ、不利益が生じるような配属替えであったり、昇任に影響がでるのが消防です。
パワハラとセクハラのダブルパンチですね。
どんな状況になろうとも、発言が公になる可能性がある場所では【女性職員のためにマタニティ制服の導入を採用していただいたことは嬉しく思います】とか言うしかないんです。
マタニティ制服導入からみる消防組織の腐敗具合
マタニティ制服を導入している消防本部については、下記の問題を抱えていると思って間違いありません。もちろん、当の消防本部は問題であると認識していません。
腐敗点1 内部アピール重視でコスト意識が欠如
現職時には消防予算全般に関する事務を実施し、予算配分の検討や実施事業の妥当性、事業費予算の妥当性について多数取り扱ってきた立場から言わせてもらいます。
より安く公用品を取り扱う方法は、取り扱う種類を減らして、1種類あたりの使用数を増やすことです。
防火手袋A、防火手袋B、防火手袋Cを採用して、それぞれ100個ずつ購入するよりも、防火手袋Aのみを採用して300個購入した方が単価が下がります。
男性用制服(夏・冬)女性用制服(夏・冬)と最低でも4種類の取り扱いがあるなかで、女性用マタニティ服を追加となれば、5種類の制服を取り扱うこととなります。当然、全体のコストはあがることとなります。
コスト面が前面に出れば、採用されない施策です。採用された理由は、内部の承認ルートへの説得を最優先した立ち回りをしたからに違いありません。
どんな施策であっても、立案者というものが存在します。その立案者を出世させるための理由が欲しいか、立案者自身が出世欲が深く、出世のために必死に立ち回ったかのどちらかです。
必要な施策のためにコストが上がることは仕方がないことかもしれません。しかしながら、必要な施策でしょうかね?これについては腐敗点3で後述します。
腐敗点2 内部アピール重視で社会性の欠如
内部アピールの状況については、腐敗点1に記載したとおりです。
社会性の欠如について説明します。
社会性が高い組織であれば、妊婦であることを社内や市民に対して公表することを強制するなんてことはありません。
妊婦であることを公表するか否かの権限は、その職員自身にあるのが原則です。公表しないことで業務継続上の著しい問題が生じたとしても、公表の範囲については出来る限り狭くするのが配慮というものです。
こういった状況なのにも関わらず、マタニティ制服を着せて報道発表までしてしまうような消防本部に社会性があると言えるでしょうか?
腐敗点3 政策立案システムの崩壊
そもそもマタニティ制服は必要ではない。ということが結論です。
- 職員であることを認識されない⇒職員であることの唯一のポイントが制服になっていることが問題である。私服勤務であっても、目立つように名札をぶら下げていれば職員であることは認識されるはずである。
- 制服勤務の中で一人だけ私服だと職員であることを認識されない⇒私服勤務の男性職員を増やせばいいのです。そもそも、消防が制服を着用して勤務しなければならないという法律も条例規則も無いはずです。(あるとすれば、出張中等も含めて常に勤務時間中は制服を着ていますか?)無理やり妊婦であることを公表させられるシステムは社会性を欠いており、パワハラやセクハラの可能性もある。
- コスト面について⇒マタニティ制服導入ではなく、私服勤務者の増加や名札の改良であれば圧倒的にコストは抑えられる。
簡単に3点だけ挙げましたが、いずれの考え方もマタニティ制服導入より優れています。
唯一劣る点があるとすれば、内部的と外部的にアピールできないという点です。出世のためのアピールが出来ない。女性活躍推進のために頑張っていますよというセクハラアピールも出来ない。
こういった施策が立案実行されてしまう背景には、意見を言いにくい職場風土が根強くあることは間違いありません。ちょっとでも柔軟な考えをもった人がいれば、マタニティ制服導入によるデメリットや問題が多数抽出されるはずです。
こういった人々の正しい意見が抽出されない職場風土ということです。
正しい意見よりも、階級や職位が高い無能な人間の間違った意見が採用される職場です。絶対に避けたい職場ですね。
まとめ
ある特定の消防本部を非難した内容ではありません。
あくまでも、マタニティ制服をトップダウン的に導入している消防本部は危ないですよという一般的なお話です。