またしても山口県の消防本部でパワハラを原因とする自殺と疑われる事件が起こっていたようです。
事故概要
山口県内の消防署ので勤務していた当時46歳の男性消防士が、2019年3月に自殺したのは職場でのいじめやパワハラが原因の可能性があるとして、両親の代理人弁護士が、地方公務員災害補償基金山口県支部に公務災害の認定を求める申請書を提出した。認定されれば遺族に補償金が支払われる。 被害者の男性消防士は、同僚の不祥事を上司が隠蔽しており、それを公表するよう求めたところ、いじめられるようになったと話していた。上司からは、殴られたりしたという。 被害者の自殺を巡っては昨年、2回にわたり代理人弁護士が第三者委員会の設置と調査を求める要望書を市に提出しているが、市は設置について「調整中」としている。
大切なポイントは下記のとおりです。
- 公務災害認定の流れ
- パワハラの認定をする権限を有する人
- 消防はパワハラを根絶したいという目標を掲げている
- 加害者について
公務災害認定の流れ
分かりやすいように、火災現場で怪我をしてしまった場合を見てみましょう。
- 被害者が医療機関を受診
- 被害者が直接病院から診断書(公務災害用の指定様式)を受領
- 被害者が消防本部の公務災害事務担当に公務災害認定請求書を提出
- 事務担当は書類を整えて消防長(任命権者)の意見書・証明書を添付する
- 公務災害補償基金支部に認定請求書等を提出する
- 公務災害補償基金支部が公務災害であることを認定して消防長(任命権者)に通知する
- 事務担当を経由して、被害者職員に公務災害認定されたことが通知される
- 医療費や休業にかかる保証が約束される。障害が残った場合には、その点についても補償される。
ざっくりとですが分かりましたか?
大切なのは、被害者本人が公務災害認定請求書を作る必要があるという点です。
認定請求書には、火災現場において、いつ、どの場所で、どのような状況で負傷したかを詳細に記載する必要があります。当然、その場に居合わせた他の職員や、現場責任者などの証言が必要な場合には、必要な事項を記載した書類も添付する必要があります。
軽症であれば可能ですが、重篤な症状の場合、認定請求書を自ら揃えるのは非常に困難です。
火災現場での爆発や崩落により死亡した場合には、公務災害認定のための書類を事務担当者などが作る場合も多くありますが、軽傷や自殺となると話は違ってきますね。
パワハラの認定をする権限を有する人
今回のケースでは、厳密に言うと、パワハラを認定する人と、パワハラにより自殺したことを認定する人は別の人であるとも言えます。
前者のパワハラを認定する人は、消防長(任命権者)です。
後者のパワハラにより自殺したことを認定する人は、公務災害補償基金支部となります。
違いはどこにあるのか。
パワハラがあった場合、加害者と被害者が存在しますが、その被害者に対して補償が必要か否かという点において異なります。
指導の域を超えて、他の職員がいる前で大声でミスを注意されたが、耐えてその後も働き続けた。という場合、パワハラは存在し、加害者も被害者も存在します。ただし、補償が必要な被害者は存在していないということです。
感情的にはパワハラ被害者には何かしらの保証があるべきという意見もあるでしょうが、このケースでは、病院での治療も休業もしていないので、補償のしようがないんです。パワハラという行為に対して賠償責任・慰謝料が発生するとかいうのは、また別の話です。
今回の山口県の消防本部での件については、補償を求めての訴えであるため、公務災害補償基金支部に対してパワハラの認定を求めているというわけです。公務災害補償基金支部がパワハラを認定すれば、補償がセットでついてくるということですから。
では、消防長(任命権者)によるパワハラの認定は、どのような効果があるのでしょうか?
まず、公務災害認定の流れの4番を見返してください。
公務災害補償基金支部に認定請求書を提出する際に、消防長(任命権者)の意見書・証明書の添付が必要になっています。
そして、この意見書・証明書の中に【本認定請求書に記載のある事故については、公務災害であると考えられるため、認定をお願いします】という趣旨の記載があるんです。
つまり、火災現場での事故などではなく、パワハラによる公務災害認定の場合、消防長は【この被害者は、当消防本部内で発生したパワハラ事案により被害をうけ、それを原因として自殺したものと考えられるため、公務災害の認定をお願いします】という趣旨の記載になりますね。
消防長がパワハラを認定したところで、補償はセットにならないことと、認定のハードルが公務災害補償基金支部よりも高いことが分かるのではないかと思います。
消防本部内のパワハラで職員が自殺したことが明るみになれば、消防長の責任も問われます。自己防衛意識の高いのが消防士なので、基本的には認めることはありません。
消防はパワハラを根絶するという目標を掲げている
さらに言うと、消防組織内のパワハラは大きな問題になっており、総務省からもパワハラを根絶すべく、各市町村の消防本部にお達しが出ています。
そのため、絶対にパワハラがあったことを認めたくないんです。
【認めなければ無いのと同じ】という意識が根強くある組織であり、みんなで口裏を合わせるのが消防という組織です。
勇敢にも同僚の不正を明るみに出そうとすると、執拗なまでの返り討ちに遭います。
加害者について
加害者についての処分が成されるか否かについては、2つの重要なポイントがあります。
- パワハラとして認定されること
- 組織としてではなく、個人としてパワハラが行われたことの立証と認定
ひとつめのパワハラ認定は先述のとおりです。ここで言う認定は、公務災害基金でも任命権者でも構いません。
ふたつめが厄介なんです。
具体的にどのような状況で、どのような行為が行われたかを調査し、明文化し、パワハラとして取り扱う妥当性があるか否かを判断することとなりますが、一般化されるような状況での認定は困難です。
【バカヤローと言ったらパワハラ】では足りないわけです。被害者側にどのようなバックグラウンドがあり、行為当日前後の状況からその瞬間の行為を切り取った結果、他の【バカヤロー】とは明らかに異なることを、明文化して残すことが求められるわけです。
もしも、そういったモノがあるのであれば、1日も早く労基署なり裁判所なりが公表してくれればいいのですが、非常に困難であり、可能性の例示しかできないわけです。
そういったことから、管理監督者責任として、管理職等が処分されて終わり。一番の加害者には処分なしといったケースも少なくありません。
まとめ
パワハラの立証・認定は非常に難しいです。
特に消防という悪い意味での仲間意識が高い、出世のための人への依存度が高い組織では、弱者はひたすらに淘汰されていきます。
そのような世界からパワハラをなくすべく活動を始めました。
泣き寝入りせずに、行動を起こしましょう。