【熊本】パワハラによる自殺と認定【第三者委員会】

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概要

菊池広域連合消防本部に勤めていて『パワハラ』を訴え自殺した当時47歳の係長男性が、公務災害に認定されたことが分かりました。
男性は2020年4月、上司からの『パワハラ』を訴え自殺し、第三者調査委員会は去年3月、自殺とパワハラの因果関係を認定しました。
その後、遺族が「公務が自殺の原因」として地方公務員災害補償基金に公務災害の申請を行い7月6日付で認定されたということです。
菊池広域連合消防本部の後藤泰章消防長は「重く受け止め、二度とこのようなことが起きぬようハラスメント撲滅に努めていきます」とコメントしています。

引用元

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事故から2年以上経っての認定

 第三者委員会の資料も公開されているようです。これは令和3年3月に作成されたもので、こういった資料がネット上に公表されているのは珍しいですね。

 この第三者委員会の報告を受けて、地方公務員災害補償基金に対して公務災害の認定を求めたものであり、地方公務員災害補償基金の審査期間が2年程度あったということなのでしょう。

 第三者委員会の設置状況を確認すると、消防本部の判断により設置された委員会であり、第三者委員会が持つ権限はあくまでも報告するのみであり、公式に何かを認定する権限は有していません。地方公務員災害補償基金と、この第三者委員会に関連は一切ないように見えます。

 パワハラか否かを最終的に認定する権限は消防本部ではなく、災害補償基金であるにも関わらず、勝手に消防本部がパワハラ認定をしてしまった。

 この状態であるため、委員会からの報告から公務災害の認定まで2年程度の期間を必要としてしまうのは仕方がないことです。

 認定のセオリーは、第三者委員会の設置・報告を経ずして災害補償基金に対して働きかけることですが、かなり勝率は低いです。相当な証拠がそろっていたとしても、災害補償基金が自発的にパワハラを認定することは非常にレアなケースです。

基金がパワハラ自殺を公務災害認定しない理由

理由は二つあります。

  • 大前提として、各地方公共団体はパワハラの発生に対して厳しく対応しているため、自殺にまでつながるはずはないというスタンスである。万が一パワハラが存在したとしても、軽い精神疾患などが発生するだけであり、各地方公共団体は各種法令やガイドラインに則った対応をすることにより、最悪の結果に繋がることは絶対にない。パワハラ自殺の認定は、当該地方公共団体の存続そのものを否定する結果に繋がりかねないと考えている。
  • 遺族補償のための支出が高額になってしまうため。

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認定されるとどうなるのか

遺族補償(一時金・年金)の受給権が発生する。

 パワハラを原因とするか否かに関わらず、公務中の死亡事故である場合、遺族補償が遺族に支払われることになります。

 基本的には、災害現場で殉職した場合でも同じ公務中の死亡事故であるため、取り扱いは同じになります。

賠償金請求裁判に高確率で勝てる

 災害補償基金に公務災害によるパワハラ自殺であると認定された場合でも、慰謝料や賠償金が無条件で支払われるというルールは備えていません。

 消防本部が自発的に賠償金を支払う場合には、個別で賠償額を決定したのちに議会承認を経て補正予算を組んで支払うこととなります。

 しかしながら、こういった例はほぼ有りません。

 基本的には遺族らが弁護士を立てて調停や訴訟を起こしてきた事に対して、和解金・賠償金を支払うか否かについて争うことになります。

 しっかりと裁判で争うか、相手方の請求にそのまま支払うかどうかは、市長や議長の性格や方針によりますね。どちらが正解の対応かは分かりません。賠償する意思があるのと、その金額に納得するかは別の話ですからね。

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第三者委員会の報告書

 第三者委員会が作成した報告書について、長い報告書なので全文を読むのはナカナカ骨が折れると思います。

 P20の諮問事項③だけでも読んでいただきたいものです。以下タイトルだけ抜き出してみました。

第5 諮問事項③(パワーハラスメントと自殺との因果関係)
 1 因果関係の複数の概念
  ⑴ (訴訟上の)事実的因果関係
  ⑵ (訴訟上の)相当因果関係
  ⑶ 業務起因性
 2 当委員会が報告すべき「因果関係」
 3 (訴訟上の)相当因果関係の認定方法
 4 当委員会における因果関係の認定方法
  ⑴ 行政基準に沿って判断を行い、当委員会としての「精神障害の業務起因性」
   の判断を行う。
  ⑵ その後、「パワハラ」を受けたとの遺書があることなど、行政基準外の事情
   についても考慮する。
 5 行政基準に則った精神障害の業務起因性判断
  ⑴ 精神障害の発病
  ⑵ 業務要因の検討(業務による心理的負荷の評価)(別表1)
  ⑶ 業務以外の心理的負荷の評価(別表2)
  ⑷ 個体側要因の評価
  ⑸ パワーハラスメントと発病との因果関係
  ⑹ パワーハラスメントと自殺との因果関係
 6 遺書の存在(行政基準外の事情)
 7 まとめ
  以上のとおり、行政基準に基づく認定及び行政基準外の事情を総合的に
  考慮すると、B氏のパワーハラスメントとA氏の自殺との間には、因果
  関係が認められる。

 まぁ、権限の無い第三者委員会に認定の可否についてまでの報告を求めていること自体に問題を感じますね。

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パワハラ認定はゴールではなくスタート

 先にも記載しましたが、パワハラとして認定された場合には、賠償金などを消防本部に請求することが非常に容易になります。年齢などにもよりますが、数千万円の賠償金を請求することはできるでしょう。

 お金で解決できる問題ではありませんが、加害者が罪に問われることも無ければ、管理義務違反の組織が罪に問われることもありません。罪とは具体的な禁固刑などです。
 となれば、せめて金銭的な制裁を求めることは、まっとうな権利であり、積極的に行使することが正しいようにも思います。

 人を自殺する程追い詰めたパワハラ加害者は、殺人罪や傷害致死にはなりませんし、余程の特殊性が無い限り法廷で裁かれることはありません。