【命懸け】元消防士から見た安倍元首相の警備警護について【SP】

消防ニュース

 安倍元首相を手製の銃のようなもので襲って命を奪うという許しがたい事件が生じました。

 一部報道では、警備警護の態勢について、マニュアルに則った行動ではなかったとか危機意識の薄い地方警察だとか好き放題言われています。

 元消防士なので、警護マニュアルなどについては知りませんが、同じように命を懸けて火災等の災害から命を守る・救うための活動をしていた消防士としては思うところがありました。
 火災現場や災害現場、多重交通事故の現場、救急現場などを多数経験してきた元消防士の目線から、自分の命を懸けて人の命を守るということの意味などについて書きたいと思います。

スポンサーリンク

消防の災害対応の問題点

 消防が活動する災害現場では多くの命が失われることも少なくありません。

  • 営業中の雑居ビルでの放火による逃げ遅れが多数いる火災
  • 無差別殺傷事件による多数傷病者の発生している状況
  • 大規模な土砂崩れや河川氾濫などによる多数の逃げ遅れや避難困難者がいる状況 などなど

 様々な状況が複合的に変化していく災害という状況に対して網羅的に詳細のマニュアルを備えておくことは現実的に不可能です。

現場にいる隊員の判断が優先される

 災害現場の状況を明文化するすることは難しいため、現場に駆け付けた消防士の上級階級にいる者の判断によりその瞬間瞬間の行動が決定していきます。

 もちろん、包括的な意思決定もあれば、より具体的な意思決定もあります。

  • 包括的な意思決定(指示):隣の家に燃え移らないようにしろ!
  • 具体的な意思決定(指示):隣の家に燃え移らないように、北側から放水をして、80:20の割合で隣の家に水を多くかけろ!放水量は350l/s以上を確保しろ!

 分かりやすい例示をしましたが、実際にはもっと複雑な状況判断が必要となります。

  • 逃げ遅れがいる状況での救助のために進入するか否か
  • 現場までの経路について
  • 現場到着直後の行動について
  • 放水場所や放水量、方向について
  • 誰から救助するか
  • 誰の応急手当から開始するか

現場での判断を間違えるとどうなるのか

 現場での判断を誤ると、最小限の被害では収まらなくなります。

  • 何もしなければ延焼しなかったハズの家に、消防活動の失敗により延焼した
  • 過剰な放水により、火が入らなかった部屋の家具家電が全水損した
  • 現場までの経路を誤り、通行止めや使用不能の消火栓を選んでしまい、放水開始まで遅れた
  • 救助する順番を誤り、2人を救命できるはずであったのを1人しか救命できなかった
  • 応急手当の順序を誤り、重篤な後遺症が残ることになった

現場での判断ミスの割合は

 結論から申し上げると、現場での判断ミスは非常に多いです。

 次は実際に経験した判断ミスがあった現場です。

 本来1軒の独立火災で済むはずであったにもかかわらず、消防隊が背後や周囲への延焼防止が完了する前に中央に大量の放水をしてしまった結果、周囲4軒にも燃え移ってしまった。
 延焼防止の準備が整ってから出火建物に放水をしなければならないところを、頭に血が上った興奮状態の消防士が見事にやらかした事案です。

 2階建てアパートの2階の一室が燃える火災の際に、ベランダ側から大量の放水が行われた。その結果、下階の家財や建具が全て水損してしまった。火災の状況から見ると、屋内にホースを延長していれば少量の放水のみで消火で来ていたはずであり、水損もほとんど生じないはずであった。
 水利も豊富であり、放水のための足場も十分に確保できている環境であったことが悪く働き、冷静さを失った頭に血が上った消防士たちが自分たちの放水する姿に自惚れた結果のやらかし事案です。

 最近流行りの排煙作業を試すために3階建て専用住宅火災の現場で、放水による消火活動を一時停止させて陽圧による排煙作業を実施したところ大幅に炎の勢いが増してしまい、建物は屋根が落ちる程に燃えてしまいその建物は全焼してしまった。
 早急に排煙装置の実績を残して、出世の足掛かりにしようと考えた低能な消防士の愚かな判断により、大切な家は燃えて無くなってしまいました。

 今すぐ救助のために建物に進入すれば逃げ遅れを救助できるかもしれないが、現場で殉職者を出したくないため、よほど安全な状況が確保されているような現場でなければ絶対に進入しません。

 程度の軽いもので言うと、

 先に現場に着いていた消防隊のレベルに低く、消防車両を停車させてから消火活動開始まで時間がかかっていた。最低限のレベルを満たしている消防隊であれば、2分程度は早く消火活動を開始出来ていたはずである。
 その2分があれば、1室は燃えずに済んだかもしれない。

 心肺停止状態の傷病者に対して、救急救命士が特定行為を速やかに実施せずに救急車内への収容や病院搬送を優先した。
 この救命士は特定行為が得意ではなく自信がなかったため、血管が年齢とともに弱っている80歳以上の傷病者には特定行為をしたくないと影て言っていた。

ミスを追求されることはあるのか

 消防のミスが発覚する場合は、消防自らが報道発表をした場合に限られます。

 多い例は、救急車で搬送先の病院を間違えたとか、災害現場に向かう途中で交通事故を起こしてしまった場合です。

 搬送している傷病者やその家族、交通事故の相手方が存在しているため、隠ぺいすることができないため、致し方なく報道発表することとなります。

 対して、先に列挙した現場での判断ミスは絶対に報道されることはありません

 消防のミスによって家族を失った人や、大切な財産を失った人は無数にいますが、それらの原因が消防の過失であったことに気が付いていないし、知る由もないといった具合です。

 そのため、消防のミスにより命や家を失うことがあっても、絶対にそれらが追求されることはないんです。

スポンサーリンク

今回の報道を見て思うこと

 手製の拳銃のようなものを使って殺人を許してしまったことについて、警備をしていた方々は非常に悔しい思いをしているのではないでしょうか。

 報道で流れる動画を少しだけ見ましたが、爆発音が響いた直後に犯人に飛び掛かって押さえつける人の姿が数人映っていました。
 この犯人は身体に爆弾を巻いているかも知れないし、手製銃の他に手製爆弾や刃物を持っているかも知れないにも関わらずです。飛び掛かった瞬間に手製爆弾が爆発して複数人が死んでいた可能性も十分にあったわけです。

 自らの危険を顧みずに危険に対して立ち向かう姿は、今の消防には一切無い精神だなぁと思いました。