度重なるパワハラ行為で職場の秩序を乱したとして、分限免職処分を受けた山口県長門市消防本部元職員の40代男性が、市に処分取り消しを求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷は13日、男性勝訴の一、二審判決を破棄し、請求を棄却した。
林道晴裁判長は、行為の悪質性や、被害者が市消防職員の半数近くに及ぶことなどを考慮し「分限免職処分とした市消防長の判断が違法とは言えない」と結論付けた。
判決によると、男性は2008~17年、部下ら約30人に、約2・3キロのバーベル用の重りを投げて頭で受け止めさせるなどの暴行や暴言を繰り返した。市は17年8月に分限免職処分とした。
引用元:中国新聞
最高裁まで争った消防本部を称賛したい
消防本部は民間企業ではないため、訴訟事案を抱えた場合には、議会の承認を得て控訴などの手続きを行う必要があるのが一般的です。
全国的に件数が多い公務災害認定の訴訟の場合では、相手方が消防本部や地方公共団体ではなく公務災害基金となるため、消防本部にとっては訴訟手続きの手間はありません。
今回のように免職の取消を訴えた裁判の場合、任命権者・消防本部そのものが訴えられることになります。また、退職金の支払いを求める裁判でも同じです。
裁判は事務は膨大・多額の費用もかかる
基本的に消防本部に弁護士はいないので、いざ裁判となれば弁護士を雇う必要が出てきます。当然費用はかかります。さらに、証拠品・参考品を提出するために過去の文書や消防用資機材を集める必要があるため作業料も膨大です。
こういったことから、早期に示談に持ち込むのが多い対応です。そもそも、消防本部側が敗訴するケースは多くないため、さまざまな条件を提示して示談交渉をして、裁判費用や膨大な事務仕事を削減することとなります。
最後まで争った消防本部を称賛したい
長門市消防本部は定数70人の超少数消防本部です。全国的にみても、ここまで小規模な消防本部は多くありません。どんなに小規模な消防本部であっても消防長はいるし、総務も人事も財政も装備の担当もいるのです。そのため、人の無駄が非常に大きくなるし、専門性に乏しくなり、合併等による広域化が合理的な判断となります。
このような超小規模消防本部において最高裁まで裁判を争ったということは、よほど優秀な職員がいたのでしょう。消防職員かもしれませんし、県や市から派遣で来ていた人かも知れませんが、最高裁まで争う判断を決定した人よりも、決定の判断を促し、方々を説得するためのプレゼンを実施した人がいるのでしょう。素晴らしいですね。
特に、この消防本部が単独消防であったことが要因にあると思います。
市町村直轄の消防本部であり、組織のピラミッドが一元的であって、責任の範囲や所在が明確であったことが、このような結果に結びついた要因であるとも思います。
広域消防本部ではどうだったか
では、広域消防であった場合では、最高裁まで争う組織力や判断力、人材があったでしょうか?
十中八九ダメでしょうね。
広域消防の場合、市町村が有する責任が曖昧であったり、世間からの批判のめが市町村に向くことが少ないため、市町村からの援助は限定的です。となれば、市町村からのバックアップは期待できませんね。
逆に単独消防の場合には、消防本部の不祥事についても市町村長の責任が重大となります。そのため、消防本部の不祥事にも一体感をもって対応してくれることとなります。もちろん日頃から良好な関係性を築く必要はもちろんあります。
パワハラ分限免職の指針になるか
今回最高裁で認定されたのは「行為の悪質性や、被害者が市消防職員の半数近くに及ぶことなどを考慮」して分限免職という判断は不適切なものではないとしたことです。
- 行為の悪質性
- 被害者が全体の半数近く
この2点が揃えば、消防本部は分限免職をすることができるということです。
今回の長門消防本部のように超小規模消防本部であれば、半数の基準は満たされますが、職員数が1000人を超えるような消防本部では、半数という要件を満たすのは物理的に不可能ですね。40年勤務しても1000人中の半数の人と一緒に勤務することは無いでしょう。
あくまでも一例
上記2点はあくまでも個別具体的な判例と捉えることが合理的でしょう。
消防職員の分限免職事案は多くありません。数少ない分限免職の多くは職務上の問題というよりも、私的な事情による身体や精神の疾患に基づいて、規定する期間以上勤務に就くことがなかった場合です。
パワハラ加害者が分限免職されるよりも、パワハラ被害者が精神疾患により長期にわたって勤務に就くことができず分限免職となるケースの方が多いということです。
パワハラの分限免職はまだまだ全国的に少ないので、これから増えていくといいですね。
少なくとも、パワハラ加害者の分限免職がパワハラ被害者の分限免職よりも多くなるといいですね。
まとめ
長門市消防本部、ここまでの消防本部は全国的に少ないでしょう。
パワハラ加害者がいた過去こそありますが、今回のような出来事を完遂する能力のある消防本部としては非常に優秀な消防本部かと思います。
揉み消しやアピールのための不祥事広報を繰り返す悪質な消防本部よりも信頼できる場所なのかも知れませんね。