「たった5時間に1件」の119番装置──安芸高田市で見えた“現実のコスト感覚”

安芸高田市 中国地方
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はじめに|“緊急通報がつながらない”という異常事態

2025年5月、広島県安芸高田市で、119番通報が一時的に不通になるという事案が発生した。
原因は市消防本部の通信指令センターの電源設備にあったとされ、停電後に非常用電源が正常に立ち上がらず、システムがダウンした。

幸い、大きな人的被害は出なかったが、「命を守るための最後の砦」であるはずの通信機能が停止したという事実は、重く受け止められるべきだ。

……とはいえ、本当に“深刻”なのか──という疑問も同時に湧いてくる。

というのも、安芸高田市消防本部の年報を確認すると、そもそもの通報件数が極めて少ないからである。


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通報件数:年間2500件、実質は1日5件未満

同市の消防年報によれば、119番通報は1年間で約2500件。
このうち、いたずら・訓練・問い合わせ・間違いなどの“本件でない”通報が約1100件。

つまり、火災・救急・救助など本来の意味での“緊急通報”は、年間でおよそ1400~1600件程度と推定できる。
これを日数で割ると、1日あたり約4.4件──ざっくり言えば、5時間に1件しか鳴らない119番ということになる。

この数字を踏まえたうえで改めて指令センターの様子を思い浮かべてみると、
市の予算で導入された大型の指令卓、高性能マルチモニタ、独立した通信室、24時間体制の監視──

果たして、そこまでの設備投資が本当に必要なのか?

消防というブランドに対する“神格化”と、“設備を持つこと自体が目的化している自治体の自己満足”が疑われても仕方ない。

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「119ドラマ」と現実のギャップ

2025年、フジテレビ系列で放送された『119エマージェンシーコール』というドラマが話題を呼んだ。
主人公は消防の通信指令員。臨場感あふれるオペレーション、秒単位の判断、通話先から聞こえる緊迫した叫び声──

そのドラマでは、119番の裏側で働く人々の「使命感」「覚悟」「判断力」がこれでもかというほど描かれていた。

しかし、今回の安芸高田市の件をきっかけに、あらためてこのギャップを直視すべきだろう。

現実はどうか。

  • 1日に数回しか鳴らない通報装置
  • 電源トラブルで簡単に機能停止
  • 冗長化の仕組みも機能せず
  • 非常時の対応手順も曖昧

これが実態である。

ドラマのように「通報が鳴り止まない」「瞬時の判断が命を分ける」という場面は、全国の地方自治体ではまず起こらない
むしろ、1日に数回しかかからない119番に対して、巨大なシステムが“手持ち無沙汰”に運用されているのが現実だ。

にもかかわらず、ドラマ的なイメージばかりが市民の中に蓄積され、
「消防はいつも命の最前線で戦っている」という無条件の信頼が温存される。


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委託でいいのでは?

今回のように、安芸高田市のような中小自治体において、
数千万円規模の設備を自前で抱え込んでおきながら、
肝心なときに電源すら立ち上がらないのであれば──

周辺の大規模消防へ委託した方が合理的である

現実には、広域連携・一括指令・相互応援などの制度がすでに整備されている。
市単独で指令センターを抱える必要性は薄れており、むしろ「見栄の予算」となっている自治体も少なくない。

年間1600件の実働通報のために、365日24時間の体制と、万が一のためのバックアップシステム、人的配置、施設維持を行う合理性はあるのか?

市民に説明責任を果たすとすれば、
「本当に必要なのか?」という問いを、まず行政と消防本部自身が持たなければならない。