【救急車で知人女性宅に30分立ち寄り】吹田市消防の不祥事が暴いた「救急隊は多忙」の虚構

吹田市 消防ニュース
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ニュース概要と事案の経緯

 2024年9月、大阪府吹田市消防本部に所属する救急隊員2人が、業務中に救急車を私的利用して知人女性宅に立ち寄っていたことが明らかになった。
 この行為について、吹田市消防本部は減給10分の1(1か月)の懲戒処分を科した。

 処分を受けたのは、北消防署所属の男性消防司令補(43)と男性消防司令(52)
 男性司令補は業務で別の出張所に出向いた帰りに、救急車で知人女性宅へ立ち寄り、およそ30分間職務を離れていた。

 さらに、この立ち寄りについて男性司令は事前に相談を受け、私的利用を許可していた。つまり、現場の判断ではなく、上司が容認した上での組織的な逸脱だったことになる。

 事案が発覚したのは今年1月の匿名内部通報によるもの。吹田市消防本部の調査に対し、男性司令補は
「夜中に知人女性と電話で口論になり、普段の様子と違ったので様子を窺いたいと思った」
と説明。緊急走行もなく、救急要請もなかった時間帯に、業務用車両を私的な理由で使用していた。

吹田市消防本部はこの件について、
「市民の皆様の信頼を損ねたことを深くお詫び申し上げます。今後、再発することがないよう服務規律の確保を徹底して参ります」
とするコメントを出したが、その具体性は乏しい。

 今回の事案は、単に職務専念義務違反や車両の私的利用という問題にとどまらない。「救急隊は多忙で休む間もない」という消防組織が長年発信してきたイメージが、現場の実態とは大きく乖離していることを証明してしまったという点で極めて重大である。

救急隊「多忙説」の虚構

 消防本部や自治体広報では、しばしば「救急隊も休憩時間があります」「コンビニに立ち寄ることもありますがご理解ください」といった文言が発信される。
 この背景には、「救急隊は常に緊急出動に備えており、休む間もない」という印象を市民に持たせたい意図が透けて見える。

 しかし、今回の吹田市消防本部の事案は、このイメージを根底から崩した。
救急車を使って知人女性宅に30分も立ち寄れる程度の時間的余裕があり、さらにその間は救急要請もなく、緊急走行もしていない。これは「多忙で息つく暇もない救急隊」ではなく、「余裕がありすぎて私用に走れる救急隊」の姿だ。

 もちろん、特定の時間帯や日によっては出動が集中することもあるだろう。だが、常に多忙というのは明らかな誇張であり、むしろ暇な時間帯が圧倒的に存在するのが実態だと認めざるを得ない。


【日常的な私的利用の可能性】

 今回のように第三者の内部通報によって発覚する事案は稀である。
裏を返せば、表に出ていないだけで同様の私的利用は日常的に行われている可能性が高い

 もし立ち寄った先が家族や親族であれば、「私的利用」として大きく問題化されることは少ない。だからこそ、交際相手や浮気相手、特別な関係のある人物のもとへ行く場合だけが、今回のように問題視される。つまり、今回の件はたまたま線を踏み越えた結果として発覚したに過ぎない

 筆者自身が勤務していた消防本部でも、業務中に同僚の「忘れ物取り」に付き合わされたり、特定の家に立ち寄るといった事例は珍しくなかった。
 この背景には、「多少の私用なら許される」という組織内の甘い空気があり、それを黙認する上司の存在もある。今回の吹田市のケースでも、上司である男性消防司令が事前に許可を与えていたことが、それを裏付けている。

勤務中に私的電話トラブルを持ち込む異常さ

 今回の事案で特に注目すべきは、動機が「夜中に知人女性と電話で口論になったので、様子を窺いたかった」という点である。
この発言は、消防職員としての職業意識の低さを端的に示している。

 本来、勤務中は私生活上のトラブルや感情的な問題は脇に置き、職務に専念すべき立場である。それにもかかわらず、業務中に前夜の口論を引きずり、その解決を優先して業務用車両を私的利用したという事実は、服務規律や倫理観の崩壊を物語っている。

 さらに、この行為が単独で行われたのではなく、上司の事前許可を得て実行されている点は、組織ぐるみの問題として見なければならない。個人の逸脱というより、組織内でのモラルの共有レベルが著しく低いということだ。


【軽すぎる処分がもたらす悪影響】

今回の処分は、減給10分の1(1か月)の懲戒処分のみ。
市民感覚からすれば、この程度の処分では全く抑止力にならない

 業務時間中の私的利用であれば、少なくともその間の給与や、運行に要した燃料費などの経費は返還させるのが筋だ。
 ましてや、公正中立であるべき消防組織が、市民の信頼を根底から損ねた行為に対して、この程度の経済的負担しか求めないのは、内部処分としても甘すぎる。

 こうした軽処分は、「多少の私用なら大丈夫」という誤ったメッセージを組織全体に送ることになる。結果として、再発は防げず、同様の事案が繰り返される土壌を作るだけだ。

【第四部】今回の事案が証明した救急隊の実態

この件で確定したのは、救急隊は多忙ではないという事実だ。
ごく稀に出動が立て込む時間帯はあるにせよ、知人女性宅に救急車で30分も立ち寄れるほどの余裕があるのだから、日常的に暇な時間が存在していることは否定できない。

消防本部や自治体が発信する「救急隊もコンビニに寄ります」「休憩を温かく見守ってください」といった広報は、あたかも救急隊が休む間もなく働き続けているかのような印象を与える。しかし現実は、今回の事案が示した通り、業務中に私用をこなせる程度には暇な時間があるのだ。


【信頼失墜と市民感情】

 市民は、税金で運用される救急車が浮気相手や交際相手の自宅訪問に使われることなど想定していない。
 それが発覚しても、返納もなく、欠勤扱いもされず、わずかな減給で済むのであれば、市民から見れば消防は身内に甘い組織と映るだろう。

消防職員の中には誠実に職務を全うする者もいる。しかし、こうした事案が表面化するたびに、その信頼は確実に削られていく。そして、軽い処分は「身内擁護」という印象を強め、さらなる不信感を招く。


【総括】

今回の吹田市消防本部の事案は、単なる職務離脱や車両私的利用の問題にとどまらない。
それは、救急隊多忙説の虚構と、組織内に蔓延する規律の緩みを証明するものだった。

市民が信じてきた「救急隊は常に全力で出動待機している」というイメージは、この一件で完全に崩れ去った。
そして、その傷をさらに深めたのは、身内に極端に甘い処分という、消防組織の体質そのものである。

このような姿勢が続く限り、消防本部は自らの存在意義を損ない、信頼を取り戻すことは永遠にできないだろう。