筆者は、10年を超えるの消防士としてのキャリアがあり、その多く期間を人事等の業務を担当していました。元消防士を語る人は世の中に多数いますが、そのほぼ全ての人は、現場の消防士を数年で辞めた人たちです。私のように、人事などの消防の基幹事務を経験している元消防士は殆どいません。
その点から、他の元消防士が語る記事とは一線を画すと思っています。
随時個別相談も受け付けていますので、消防士のリアルな悩みを解決してください。
- 現在パワハラの被害を受けていて対処方法を知りたい
- 同期・友人がパワハラの被害を受けていて対処方法を知りたい
- 今はパワハラを受けていなが、パワハラの多い組織なので、自分が被害者になったときの対応方法をお知りたい
上記のような人を対象とした記事となります。
結論を先に書くと
パワハラ行為を明らかにして加害者を断罪するには、数多くの準備が必要です。
パワハラ加害者を断罪するということは、該当者以外の多数の職員を敵に回す可能性が高いです。
といった感じです。
パワハラ事例1【訓練編】
消防というのは待機を基本とする組織です。基本的には災害に対応している時間よりも訓練したり待機している時間の方が長いです。
訓練中のパワハラは本当に多く発生しており、目撃者も限定的となるため公になりにくい状況となります。そんな訓練中に繰り返されたパワハラ事案を紹介します。
簡単にいうと、訓練中にどんな些細なミスも許されない状態が続きました。本当に些細で、ミスという程でもないようなものです。
例えば、歩き始める足が左右逆だとか、手をつく位置が5センチずれてるとか、握り手が順手逆手逆だとか、言いがかりに近いようなものがほとんどです。
当然先輩方の見本はありません。絶対に出来ないことを要求してくるんです。
そういったミスを指摘するたびに、バツとして腕立て伏せ100回とかスクワット100回といった罰を課されます。しかもその場でやるのではなく、累積していき、訓練後に実施するように指示されます。理不尽な指摘と異常な罰により、訓練終了後には数千回の腕立て伏せやスクワットを命じられることとなっています。
訓練終了後、先輩たちが休憩している横で数千回の腕立て伏せとスクワットを延々と続けることとなります。当然勤務時間を超えて仮眠時間に突入しても、バツとして課された腕立て伏せやスクワットは続きます。
勤務明けの朝になるころには身体はボロボロです。その日の訓練で課された罰をやりきることが出来なかった場合、次の出勤に引き継がれ、訓練時に更なるバツが課されます。蓄積した腕立て伏せやスクワットは増えるばかりです。
訓練中は理不尽に罵声を浴びせられ、訓練後はスマホをいじっている先輩の前で無言で腕立て伏せやスクワットをやらされる。先輩は交代で寝てたりしていますが、こちらは寝られません。徹夜で腕立て伏せやスクワットです。
災害が少ない地方消防ではよくあるパワハラ事案です。
パワハラ事例2【新人編】
新人へのパワハラで多いのが人格否定です。
先輩職員が立場を利用してプライベートなことをガンガンと聞いてきて、ネタを探しに来ます。誰であっても、人には知られたくないようなことがあるものですが、質問攻めが終わるとカバンの中を漁られたり、手帳やスマホを隅々まで確認させろとか言ってくる人もいます。
そして弱みというか、新人が嫌がるイジリポイントを見つけるわけです。そのイジリポイントを執拗にいじり、新人が嫌そうにしたり恥ずかしそうにしたりするのを楽しそうに眺めるわけです。
嫌がるようなイジリポイントを見つけられなかったとしても、嫌がるまでいじりまくったり、誇張して虚偽を混ぜていじるってのは常套手段です。
今回のケースでは、カバンの中に深夜アニメのクリアファイルが入っているのが見つかり、アニメオタクというレッテルが張られ、それ以降アニメオタクとか秋葉系とかいうイジリが始まりました。
その程度?と思うかもしれませんが、消防の人たちからすればいくらでもパワハラすることが出来ます。
訓練中に少し負荷がかかると、アニメオタクにはこんなこと出来ないか?とか、アニメオタクはこの組織に要らないとか、意味不明な発言が続きます。
個人に配備される資機材に、アニメオタクとか秋葉系とかいういたずら書きをされたりすることもありました。
本人がアニメオタクと茶化すことを辞めてほしいと訴えたところ、アニメオタクはこの程度のコミュニケーションも取れないのか、やはりアニメオタクの秋葉系はこの職場には向いていないな。消防はコミュニケーション能力がないとこの先やっていけないぞ。などと返されてしまい、パワハラは少なくなるどころか、どんどん酷くなっていきました。
パワハラが揉み消される過程
被害の相談
パワハラの被害を受けたときに、一番に相談するのは、消防以外の友人や家族である場合が多いです。相談する前に、家族が些細な変化に気が付く場合もあります。
いつもより元気がないなとか、顔色が悪いな。といった具合です。
多くの場合においてパワハラの加害者は職場の直属の上司であるため、なかなか直属の上司に相談することは出来ません。
となれば、人事担当に相談するしかありません。
総務省消防庁においてもパワハラの相談窓口を設置していますが、情報を消防本部の人事担当に横流しするだけのカタチだけ窓口なので、本部の人事担当に相談することとなります。
人事担当に聞かれる内容は下のとおりです。
- パワハラ行為とは具体的にどういったことをされたのか
- いつから、どの程度の頻度、期間パワハラ行為があったのか
- パワハラ行為の証拠はあるか
- 加害者は誰で、他には居ないのか
- 被害者は君以外にいるのか
- 既に相談している人はいるのか
- どういった解決を希望するか
パワハラの言動を隠し撮りすることが出来ていれば、その音声データを提出することも求められます。
人事担当は何をするのか【ヒアリング編】
パワハラ行為の加害容疑者とその上司(管理職)をそれぞれ別々に呼び出し、聞き取り調査を行います。
加害容疑者に聞く内容は下のとおりです。その際にパワハラ加害の疑いがあることは直接は伝えない場合もありますし、直接伝えたうえで追加聴取する場合もあります。当然ですが、パワハラをやっている自覚はありません。
- どういった行為がパワハラとなるのか知っているか
- パワハラと指導・コミュニケーションの違いは説明できるか
- パワハラと誤解されるような行為をした自覚はあるか
所属の上司(管理職)に聞く内容は下のとおりです。
- 所属内にパワハラがあったか
- パワハラと指導・コミュニケーションの違いは説明できるか
- 所属内でパワハラを発生させないために上司としてやるべきことは分かるか
これらを聞いて状況を整理します。
- 客観的に見て絶対に発生したと言える事実はなにか
- 加害者と被害者の認識の違いはどの程度あるのか
- 今後配置換えする必要があるか
またパワハラの動画となるであろう隠し撮りした音声データを証拠として提出している場合には、それぞれの発言の意図についても聴取されます。
音声データの存在を明らかにするか否かについては状況に応じて判断されます。
人事担当は何をするか【対応編】
まずは話し合いの場を設ける場合もあります。
- お互いの認識の違いにより指導をパワハラと誤解していないか、逆に指導の範囲を逸脱しパワハラとなっていなかったか。
- どういう意図で厳しい指導(被害者はパワハラと認識している)を実施していたのか。厳しい現場を乗り越えるための避けられない訓練の範囲内ではなかったのか。
- 適切なコミュニケーションはどの程度を指すのか。ともに現場で連携して活動する消防士としてのコミュニケーションはどの程度必要なのか。一般よりも深い関係性が求められているという認識があるのか。
まず被害者の意見を全面的に採用することはありません。
被害者の今後の長い消防士としての社会人生活を考えて、穏便に和解という結末を目指して話を進めていきます。
適切な指導の範囲内の行為であったが、一部言動について被害者が誤認してしまい、パワハラ疑惑という話になってしまった。今後は双方の意思疎通を今まで以上に重要にして、勘違いが生じないように努力します。
パワハラで免職にあることはほぼありません。今後も加害者はこの職場に居続けることになります。また、パワハラ加害者を断罪した過去のある人になってしまうと、今後この職場に居ずらくなりませんか?人事異動により別々の所属になったとしても、このレッテルにより今までのようにはいかないと思います。和解を目指しませんか?といった具合です。
これって、どうでしょう?
加害者側の意見全面採用になっていませんか?
音声データがある場合
音声データは有力な材料であると思われていますが、注意が必要です。
TVワイドショーで某国会議員が秘書やドライバーに対して「この禿げーー!!」といいながら何かをたたく音が録音されたデータが流れたのは古い話ではありません。
確かにこの部分だけ聞くとパワハラの被害は音声データで明らかにできるといったイメージが湧きがちですが、これはあくまでもTVショーに限った話です。都合よく切り取られています。
人事担当に提出された音声データはどのように分析せれるか説明します。
まずは文字起こしして、文脈が完全に成立しているかどうかを確認します。
小説や物語ではないので、過去のことが「あれ」や「それ」といった指示代名詞が使われたり、音声買いの身振り手振りにより行われたり、実際に物や書類を見せながら「これはどういうつもりだよ!」といった音声が録音されています。
この状態であると、その場の状態を完全に再現することは出来ません。
パワハラの存在を認めざるを得ない状態の音声があるかどうかを確認します。
音にならない部分や、指示語により不明な部分を都合よく穴埋めし、パワハラではなかったと整理することが出来るかどうかというストーリーを作り上げます。
「これはどういうつもりだよ!」という大声が録音された瞬間に何を見せられていたのかや、どんな表情をしていたかは音声データからは分からないですよね。
人事担当の本当の目的①【穏便に進めたい】
とにかく人事は消防本部においてパワハラなんて事実はないってことにしたいんです。
小中学校のイジメと同じです。
被害者からのヒアリングにおいて、人事が注意深く聞いているのは、被害者救済ではなく、どのポイントでパワハラなんて事実が無かった事に出来るかを考えているんです。
- パワハラ行為とは具体的にどういったことをされたのか ⇒ 客観的に証明することができるか。暴力や罵声の証拠はあるのか。パワハラ前後のやり取りはどうなっていて、そこに適切な意思疎通が無く、そのコミュニケーション不足による結果ではないか。
- いつから、どの程度の頻度、期間パワハラ行為があったのか ⇒ パワハラ行為が始まった原因は被害者側にあり、そもそもの原因は被害者側ではないか
- パワハラ行為の証拠はあるか ⇒ 音声データや隠し撮り映像データがある場合には、パワハラの隠ぺいに時間を要して難易度が上がるため、早急に入手しておきたい
- 加害者は誰で、他には居ないのか ⇒ 他にも複数の加害者が居る場合には、数的有利によりパワハラの隠ぺいをし易くなるため
- 被害者は君以外にいるのか ⇒ 他にも被害者がいるとの訴えがあった場合で、その人からもヒアリングを行い、パワハラ被害者という認識があるか無いかを確認します。認識が無い場合には、訴えてきた人の勘違いとして処理することが出来る可能性が上がります。さらに、パワハラ被害者という認識があった場合には、この時点で訴える意思が無かったことを逆手に取り、穏便に進めたい意思を尊重しますよと話を進めていきます。そうすればパワハラなどなかったというロジックを組み立てる重要なパーツになってくれます。
- 既に相談している人はいるのか ⇒ 人事の悪行を認識しており、すべての悪の根源は人事であることを認識している人が内部には若干数います。そんな中でも、穏便派と実働派がいます。実働派に相談していた場合には、揉み消しが上手く進まない可能性が出てくるので、早急に不安要素を除去しておきたいという目論見から、「今後は人事が解決に全力を尽くすので、部外者に相談は控えるように」と伝えておきます。
- どういった解決を希望するか ⇒ パワハラ被害を受けている最中には「絶対に退職に追い込んでやる」とか「目の前で土下座して謝罪させてやる」なんて考えているものです。しかし、第三者である人事担当者から面と向かって聞かれると、退職に追い込むことや土下座なんて過激な言葉を使うことに遠慮してしまいます。そのため「私を含め、今後このような被害者が発生しないことを希望します」なんて言葉になってしまい、穏便解決を望んでいると整理して、パワハラなどなくお互いの認識違いでしたという話し合いによる解決へと進めていきます。
人事担当者の目的は、パワハラ被害者の救済ではありません。
この点にてついては上記によりご理解いただけたと思います。
次に重要なのは 人事担当者の目的は、パワハラの根絶ではありません。という点です。
人事担当の本当の目的②【パワハラの隠ぺい】
穏便な解決を提案し、進めることができれば、見事にパワハラ隠ぺい成功です。
パワハラの隠ぺいをする目的は?
組織内でパワハラがあったことが明らかになる
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加害者へのバッシングと共に、組織管理上の責任が問われる
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組織の責任者 消防長 管理者からの謝罪が求められる
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組織として対策が求められる 研修の実施や再発防止対策の公表など
第三者などによる事実の検証などが行われる場合もある
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関係した責任者等の評価が落ち、今後の出世に影響する
それでは隠ぺいした場合を見てみましょう
人事担当者がパワハラ隠ぺいのための事実を整理し穏便解決という名の加害者完全勝利による案件終了で事務処理をする。
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担当者が「本来であれば組織内でのパワハラが明らかとなり、皆様の評価が落ちるところでしたが、私に任せていただいたので、すべて穏便に処理すことが出来ました」と上司や責任者に報告します。
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上司責任者は担当者に感謝します。そして評価もします。「揉み消してくれてありがとう」と。
まとめ
もちろん性善説を信じる人からすれば、人事担当者はそんな人たちではない!というかもしれません。
しかしながら、消防組織において今まで何全何万のパワハラが揉み消されて来ました。被害に悩み自ら命を絶った人、不本意ながら退職に追い込まれた人、精神を病み今までのように暮らすことが出来なくなった人や家族崩壊に追い込まれた人なんて山ほどいる事実を認識している人は少なくないでしょう。
次の記事では、揉み消されない方法を記載します。
この記事の中でもヒントはありますが、より具体的に記載したいと思います。
消防におけるパワハラの根絶は、加害者を責めるのではなく、悪徳な人事担当者や出世に目がくらんでいる幹部を断罪しなければ始まらない。ということです。
周りに頼れる人もいないなど、困ったら相談ください。