特別査察の違和感 殉職火災後に行うべきは査察ではなく戦術検証

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【消防本部の特別査察は論点のすり替えではないか】

 2025年8月の火災で消防職員2名が殉職したことを受け、一部の消防本部が「特別査察」を実施しているとの報道が出ています。

 対象は特定用途の防火対象物や、一階段しかない建物など。表向きは安全確認の強化という形ですが、果たしてこれは妥当な対応と言えるのでしょうか。

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市民保護のための特別査察との違い

 過去、雑居ビル火災などで一般市民に犠牲者が出た場合、全国的に特別査察が行われた例がありました。これは「同じ被害を市民に出さない」という明確な目的があり、筋が通っていたと言えます。

 しかし今回は状況が異なります。犠牲となったのは市民ではなく、消防職員自身です。それにもかかわらず、同じ枠組みで建物査察を行うことには大きな違和感があります。

 市民保護と職員安全は同列には扱えないはずです。

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「何を無くしたいのか」が曖昧化している

火災を無くしたいのか。
火災による市民の被害を無くしたいのか。
それとも消防職員の殉職を無くしたいのか。

 この3つは似ているように見えて、取り組むべき内容は全く異なります。
ところが今回の「特別査察」は、目的の焦点をぼかしたまま、形式だけの安全対策を演出しているようにしか映りません。

 結果として「消防は論点をすり替えて責任を逃れている」と見られても仕方がないでしょう。

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本来優先すべきは「殉職防止」

 殉職という最悪の事態が発生した以上、消防がまず取り組むべきは建物査察ではなく、自らの組織と指揮命令系統とその妥当性の検証です。

  • 火災現場で冷静に撤退判断を下せる仕組みはあるのか
  • その判断を担う人材が本当に指揮を執っているのか
  • 危険を前に「勇敢さ」を強要する文化が温存されていないか

 こうした根本的な点こそ検証・改善が必要です。しかし現時点で、そうした取り組みを公表した消防本部は一つもありません。

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幻想に胡坐をかく消防

 「自分たちはプロだ」と言いながら、職員の命を守る仕組みの再点検を後回しにし、形式的な査察でアリバイを作る――。

 これでは、殉職を教訓とするどころか、また同じ悲劇を繰り返す危険を自ら温存しているに等しいのです。

 もちろん、特別査察に意味がないと言っているわけではありません。消防の有り余るリソースをすべて指揮命令関連の検証に使う必要もないので、特別査察も積極的に、そして覚悟をもって行うべきでしょう。そもそも火災が起こらなければ殉職事故を起こすことはなかったのですから。

 しかしながら、今回の特別査察は、根本となる検証が後回しどころか、実施されないという状況が垣間見え、消防組織の責任回避体質を浮き彫りにしました。

 今回の火災から得るべき教訓は、建物の外観や形式ではなく、火災現場で命を懸ける職員の安全のはずです。