北海道の釧路市消防本部が、勤務時間外に無許可で塾講師の副業を行い報酬を得ていたとして、20代の男性消防士を懲戒処分にした。処分は減給10分の1・1カ月で、7月22日付。消防職員による無許可の兼業をめぐる処分は各地で相次いでおり、今回の事案もその流れの中に位置づけられる。以下、報道で確認できた事実と、それに対する論評を分けて整理する。
事実:釧路市消防本部が公表した事案の概要
釧路市消防本部は7月24日、中央消防署に所属する20代の男性消防士を減給10分の1・1カ月の懲戒処分にしたと発表した。処分は7月22日付である。
報道によると、この消防士は任命権者の許可を受けないまま、勤務時間外に、知人からの依頼を受けて塾講師の業務に従事し、報酬を得ていた。発表内容からは、勤務そのものへの支障や、消防業務に関連した利益相反があったとまでは示されていない。あくまで「許可を得ずに報酬を伴う業務に従事した」という手続き面の違反が処分の中心とされていると報じられている。
なお、本記事では個人の特定につながる情報は扱わず、組織名・役職の範囲にとどめる。
事実:地方公務員の兼業を規制する法的な枠組み
地方公務員が報酬を得て事業や事務に従事する場合、地方公務員法第38条(営利企業への従事等の制限)により、任命権者の許可が必要とされる。総務省の資料でも、営利企業等に従事する際には同条の規定に基づき許可を受けることが必要と整理されている。
消防職員もこの規制の対象であり、副業の内容が塾講師のように直接は消防業務と関係がない場合でも、報酬を伴う限り事前の許可申請が求められる。許可を得ずに従事すれば、業務内容の善し悪しとは別に、それ自体が服務規律違反として懲戒の対象になり得る。
総務省は、地方公務員の兼業について「地方公務員の働き方に関する分科会」で継続的に議論しており、社会貢献活動などへの参加を促す観点から、許可基準の明確化を検討課題として挙げている。つまり、兼業を一律に禁じる方向ではなく、許可という手続きを前提に整理していくのが現在の流れだと整理できる。今回のような無許可の事案は、その前提となる手続きが踏まれなかった点で問題とされている。
事実:他の消防本部でも相次ぐ副業関連の処分
無許可の兼業をめぐる処分は、近年、複数の消防本部で公表されている。
千葉県の袖ケ浦市消防では、副業に関わったとして消防職員が多数処分され、一部で不適切なやり取りがあったとも報じられた。大阪市消防局では、動画投稿による副業収入を得ていた男性消防士が停職3カ月の処分を受けたと報じられている。東京消防庁でも、食事宅配サービスの配達員として報酬を受け取った消防士長が減給の処分を受けた例がある。
処分の重さは、報酬額、継続期間、隠蔽の有無、業務への影響などによって幅がある。停職に至った事例では、副業の回数が多く収入も一定額に上っていたことや、発覚後の対応が問題視されたことがうかがえる。一方で減給や戒告にとどまった事例は、報酬が少額であったり、期間が短かったりするケースが多いと見られる。今回の釧路市の事案は、勤務時間外の単発的な依頼であり、隠蔽の事実も報じられていないことから、こうした事例の中では比較的軽い部類の処分と位置づけられると見られる。
論評:手続き違反を「軽微」と片づけてよいか
今回の事案は、塾講師という社会的に問題視されにくい業務であり、勤務時間外の行為でもあることから、「実害の乏しい手続きミス」と受け止められやすい面がある。
しかし、公務員の兼業許可制度は、職務専念義務や信用保持、利益相反の防止といった複数の目的を持つ仕組みだという指摘がある。許可申請の段階で勤務への影響や利害関係の有無をチェックできるからこそ、事前許可に意味があるという考え方だ。無許可であれば、たとえ結果的に問題がなかったとしても、そのチェック機能が働かないまま報酬を得ていたことになる。この点で、手続き違反そのものを軽視すべきではないという見方は一定の説得力を持つ。
一方で、副業が広く一般化する中、公務員の兼業許可基準が分かりにくい、あるいは申請のハードルが高いという声もある。制度の趣旨を守りつつ、どこまでを許可制の対象とし、どこからを届出で足りるものとするのか、運用面の見直しを求める意見も出ている。
論評:再発防止の鍵は「周知」と「相談しやすさ」
消防本部で副業関連の処分が続く背景には、兼業ルールの理解が現場に十分浸透していない可能性があるとの指摘がある。特に若手職員の場合、知人からの依頼という形で軽い気持ちで引き受けてしまい、許可が必要だと認識していなかったケースも想定される。
再発を防ぐには、処分の公表による抑止だけでなく、採用時や昇任時の研修で兼業ルールを繰り返し確認すること、そして「これは副業に当たるのか」を職員が気軽に人事部門へ相談できる窓口を整えることが有効ではないか、という声がある。処分を科すことと、相談しやすい環境をつくることは矛盾しない。むしろ両輪で進めることが、組織の信頼維持につながると考えられる。
まとめ
釧路市消防本部の今回の処分は、無許可の兼業という手続き面の違反に対するもので、処分の重さも比較的限定的だった。ただ、同種の事案が各地で続いている現状を踏まえれば、個々の処分の是非以上に、消防組織全体で兼業ルールの周知と運用のあり方を点検する契機とすべきだという指摘は的を射ていると見られる。
